財務省が5月10日に発表した令和5年度の国際収支速報で、日本の「デジタル赤字」が常態化している構図が浮き彫りとなったとの報告がされた。
デジタル赤字とは、どういうことか。その後に制定されるデジタル課税とは、何か。
これらを、わかりやすく解説するとともに、なにより、円安による輸入品価格の高騰が、生活への負担増となっているのではないか。
報告された「デジタル赤字」とは
デジタル赤字とは、日本の企業や個人から海外のデジタルサービス事業者への支払い額が、海外からのデジタルサービス事業者からの収入額を上回ることによって生じる赤字を指します。
日本のデジタル赤字は、2023年度には5.5兆円に達しました。
デジタル赤字が問題視される理由:3つ
- 日本の国際収支を悪化させる
- 国内のデジタル産業の空洞化を招く
- 円安を加速させる
デジタル赤字を解消の対策
- 国内のデジタル産業の育成
- 海外展開を目指す国内企業の支援
- デジタルサービスの利用に関する国民の意識向上
日本のデジタル赤字の主な支払い先
- アメリカ: 2兆円超
アメリカは、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)などの巨大IT企業の本拠地であり、クラウドサービス、OS、インターネット広告などの利用料が膨らんでいます。 - アイルランド: 1兆円超
アイルランドは、多くのIT企業が税制上の優遇措置を受けるために法人を設立しており、日本からのロイヤルティなどの支払いが多いです。
フェイスブック(Meta)
グーグル(Alphabet)
ツイッター
LinkedIn
イーベイ
ペイパル
これらの企業は、アイルランドに法人を設立することで、法人税率を低減しています。 - シンガポール: 5千億円超
グーグル(Alphabet)
フェイスブック(Meta)
アマゾン(Amazon)
マイクロソフト(Microsoft)
アリババグループ
テンセント
これらの企業は、シンガポールの戦略拠点として法人を設立しています。
デジタル赤字の事例
日本のデジタル環境は、海外企業に頼っている構図であり、この環境を変えない限りは デジタル赤字となることは避けられないでしょう。
デジタル赤字となる背景
- 日本の企業や個人が、海外のデジタルサービスを大量に利用していること
- 例えば、Google、Amazon、Facebook、Appleなどの米国のIT企業のサービスは、日本でも広く利用されています。
- 日本国内では、デジタルサービス事業者が育っていないこと
- 日本の企業は、海外企業に比べて、デジタルサービス事業で競争力が弱いと言われています。
解決する取り組み
- 日本国内のデジタルサービス事業者を育成すること
- 日本の企業が、海外企業と競争できるようなデジタルサービスを開発することが必要です。
- 政府による支援や、ベンチャー企業の育成などが求められます。
- デジタルサービスの利用促進
- 日本国内の企業や個人が、国内のデジタルサービスを積極的に利用することが必要です。
- 国民の意識啓発や、利用しやすい環境整備などが求められます。
具体的な事例
- 音楽配信サービス: 日本の音楽配信サービスの利用者数は増加しているが、収益は海外のサービス事業者に流出しています。
- 動画配信サービス: 日本の動画配信サービスの利用者数は増加しているが、収益は海外のサービス事業者に流出しています。
- クラウドサービス: 日本の企業は、海外のクラウドサービスを大量に利用しており、利用料が海外へ流出しています。
- 電子商取引: 日本の電子商取引市場は成長しているが、多くの商品が海外から輸入されており、代金が海外へ流出しています。
デジタル課税を詳しく知ろう
デジタル課税って?
インターネット上のサービスや商品に対して、売り手がいる国だけでなく、買い手がいる国も税金を課すことができるようにしようという制度なんだ。
(現在のルールでは、売り手がいる国のみが税金を課すことが出来ます。)
例えば、
アメリカのAmazonで商品を買った場合、現在はアメリカでしか税金が課されていない。
しかし、デジタル課税が導入されると、日本でも税金が課される可能性があります。
なぜ必要なの?
近年、インターネット上のサービスや商品が急増しているにもかかわらず、従来の税制では十分に課税できていないという問題があります。
例えば、
AmazonやGoogleなどの巨大なIT企業は、世界中で莫大な利益を上げているにもかかわらず、低税率の国に拠点を置くことで、税金を安く済ませています。
デジタル課税は、こうした企業から適切な税金を徴収し、各国の財政収入を確保することを目的としています。
いつ制定予定?
デジタル課税については、国際的なルール整備が進められており、2024年中にOECD加盟国を中心に導入される見込みで進んでいます。ただし、具体的な導入時期や課税方式については、各国で議論が進んでおり、まだ決まっていない部分が沢山あります。
OECDは、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development)の略称で、正式名称は「経済協力開発機構」です。世界経済の活性化と持続可能な発展を目指して、加盟国間の政策協調や情報交換、研究活動などを推進しています。ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟しています。
世界共通のルールになる?
デジタル課税は、各国で異なるルールを設けると、企業にとって負担が大きくなるだけでなく、国際的な二重課税の問題も発生する可能性があります。
そのため、OECDを中心に、世界共通のルールを整備する調整が進められています。
反対国はある?
デジタル課税の導入には、アメリカやアイルランドなどの国が反対しています。
これらの国は、低税率政策を誘致することで、経済成長を促進してきたという背景があり、デジタル課税の導入によって、企業の負担が大きくなり、経済活動が萎縮する可能性があるという懸念も持っています。
円安による消費者への負担
デジタル赤字は、円安による為替影響で大きくなっていますが、円安は、私たちの日々の生活に様々な影響を与えています。
特に、輸入品価格の高騰は、家計の負担を大きく増加させています。
主な影響
- 食料品価格の高騰
- 牛肉、豚肉、小麦、大豆など、多くの食料品は輸入に頼っています。
- 円安により輸入価格が上昇し、店頭価格も値上げされています。
- エネルギー価格の高騰
- 原油、天然ガスなどのエネルギー資源も輸入に頼っています。
- 円安により輸入価格が上昇し、電気代やガソリン代などの料金が値上げされています。
- 生活必需品の値上げ
- 衣料品、家具、家電製品など、様々な生活必需品の多くは輸入品か、輸入部品を使用しています。
- 円安によりこれらの製品の価格も上昇し、家計の負担となっています。
政府の対策
政府は、円安による物価高騰への対策を講じています。
1. ガソリン・灯油等の価格抑制措置
- 内容: 石油価格高騰対策として、ガソリン税の一部を暫時停止し、揮発油税等の暫時的な特例措置を講じている。
- 効果: 2023年11月には、前年同月比で約17円値下げとなったが、ガソリン価格全体の値上げ幅は抑制できていません。家計への負担は依然として大きいです。
2. 小麦・米などの食料輸入支援
- 内容: 食料価格の高騰対策として、政府売渡し価格を引き下げ、輸入小麦、米、飼料用トウモロコシ等の安定供給に努めている。
- 効果: 輸入小麦価格は、2023年11月時点で前年同月比約14円値下げとしたが、米や飼料用トウモロコシ等の価格は依然として高止まりして、十分な効果は出ていません。
3. 低所得者への支援
- 内容: 低所得者向けの生活支援制度を拡充し、公租公課等の減免、生活必需品の購入支援、緊急小口資金の貸付等を行っている。
- 効果: 対象となる低所得者層が限定的であり、十分な支援にはなっているとは言えません。
4. 中小企業への支援
- 内容: 中小企業向けに、資金繰り支援、価格転嫁支援、事業再構築支援等の施策を拡充している。
- 効果: 支援内容が複雑で、申請手続きが煩雑との声も聞かれます。
5. エネルギー価格抑制に向けた取り組み
- 内容: 再生可能エネルギーの導入促進、省エネルギー対策の推進、石油・ガス探査開発の支援等を行っている。
- 効果: 長期的なエネルギー価格抑制には効果が期待したいが、効果が出るまでには時間がかかる。
課題と展望
デジタル赤字の解消には、日本のデジタル関連の構図改革によると考えます。日本からのデジタル輸出が、GAFAMレベルが出てこないとデジタル赤字の解消は困難ではないでしょうか。
物価高騰への施策も実行はされつつも、物価高騰の抑制には十分な効果とは言えず、更なる対策が必要とされています。
政府の対策を期待したい。