はじめに:AI時代の電力危機

AIの進化とクラウドサービスの拡大により、米国をはじめとして世界中でデータセンター(DC)の電力需要が急増しています。
将来のデータセンターにおけるインフラ技術課題の「三大要素」として、電力・水資源・放熱技術が世界的に最も重要視されており、特に2025年以降、電力網の逼迫や再生可能エネルギーの不安定さが課題となり、安定かつクリーンな電源の確保が喫緊のテーマとなっています。
この状況下で注目されているのが、SMR(小型モジュール炉)という次世代原子力技術です。
AI向けDCの急増と電力不足の予測:なぜ今のままでは足りないのか?
国際エネルギー機関(IEA)および米国電力中央研究所(EPRI)、日本エネルギー経済研究所(IEEJ)などの報告によると、現状の電源構成やインフラでは2030年までに深刻な供給不足に陥る可能性が高いと複数の試算が示されています。
米国の状況
- AI処理の電力消費は従来の検索の10倍以上
- 2030年にはDCが米国総電力の最大12%(132GW)を消費する可能性
- 一方で、同時期に104GWの発電所が廃止予定
- 地域によってはDCが州電力の50%近くを占める試算もあり、停電リスクが高まる
日本の状況
- AI・半導体工場の新設により、最大需要電力が13倍に増加する可能性
- 2024年以降、電力需要は増加に転じ、2034年には5.8%増加と予測
- 再生可能エネルギーや原子力の導入が遅れており、短期的な供給力強化が困難
参考:データセンターの電力消費量 2030年に日本超え IEA報告書
SMRとは?従来型原発との違い
SMR(Small Modular Reactor)は、従来の大型原発とは異なり、工場で製造される小型の原子炉モジュールを現地で組み立てる方式を採用しています。
| 比較項目 | SMR | 従来型原発 |
| 出力規模 | 数万kW(モジュール単位) | 数百万kW |
| 建設方式 | 工場製造+現地組立 | 現地大規模建設 |
| 建設期間 | 数年以内 | 10年以上 |
| 安全性 | 受動的安全設計(自然冷却など) | 外部電源・人為操作依存 |
| 設置場所 | 都市近郊・施設内も可能 | 専用敷地が必要 |
SMRは、柔軟性・安全性・設置性に優れ、分散型電源としての活用が可能です。
なぜSMRがDCに適しているのか?
データセンターは、以下のような電力を必要とします。
- 常時稼働のための高い安定性
- 数十〜数百MW規模の高密度電力
- 都市近郊に立地するための設置柔軟性
- ESG対応としての脱炭素性
SMRはこれらすべてに対応可能であり、再生可能エネルギーの補完電源として最適とかんがえられています。
なぜ既存原発を再稼働せず、SMRを新設するのか?
以下は、米国における状況を例としています。
- 老朽化:米国の原発の多くは1970〜80年代建設で、再稼働には大規模改修が必要
- 社会的反発:原発事故の記憶から、再稼働への住民・政治的反対が根強い
- 分散型ニーズ:SMRは需要地に近接設置でき、送電ロスを抑制
- 政策と投資の集中:米エネルギー省(DOE)やビッグテックがSMRに注力
SMR以外の電力確保策:現実的な選択肢と進行状況
SMR(小型モジュール炉)は中長期的な安定電源として注目されていますが、現時点ではより導入が進んでいる現実的な選択肢も存在します。
特に、再生可能エネルギーや自家発電、AIによる電力制御などが、データセンター向けに実用化されています。
主な電力確保策とその特徴
| 電源構成 | 特徴 | 課題 |
| 再エネ+蓄電池 (BESS) | CO₂排出ゼロ。GoogleやAmazonが導入。夜間も安定供給可能。 | 設備コスト、蓄電池の寿命、安全性管理 |
| 自家発電 (ガス・ディーゼル) | 即応性が高く、敷地内設置が可能。緊急時のバックアップに有効。 | CO₂排出、燃料供給の安定性、騒音・熱問題 |
| AIによる電力最適化 | Google DeepMindが冷却電力を最大40%削減。PUE改善に貢献。 | 初期導入コスト、既存設備との統合 |
| 地域熱電併給 (CHP) | 発電時の排熱を再利用し、エネルギー効率最大80%。 | 初期投資が大きく、地方導入は困難 |
ハイブリッド戦略が主流に
多くのデータセンターでは、以下のような複合的な電源構成が採用されています。
- 太陽光+蓄電池+自家発電
- 天然ガス+AI制御+CHP
- 再エネ+SMR
このように、SMR単独ではなく、複数の電源を組み合わせたハイブリッド戦略が現実的な選択肢として広がっています。
SMRを支える日米企業の連携
米国企業(開発・運用)
| 企業名 | 特徴 |
| NuScale Power | 世界初のSMR設計認可取得。軽水炉型。 |
| Kairos Power | Googleと契約。フッ化物塩冷却炉を開発。 |
| TerraPower | ビル・ゲイツ創設。ナトリウム冷却炉を推進。 |
| X-Energy | 高温ガス炉を開発。Dowと産業用契約。 |
日本企業(技術・部材・資本で参画)
| 企業名 | 関与内容 |
| 日立製作所 | GE VernovaとBWRX-300を共同開発。 |
| 三菱重工業 | 自社SMR技術を米国展開。 |
| 東芝・IHI・日本製鋼所 | 原子炉部材・制御機器を供給。 |
| ソフトバンクG | 米国電力インフラに巨額投資。 |
このように、日米の技術・資本が融合し、SMRの商用化を加速させています。
SMRは救世主となるか?
SMRは以下の点でデータセンターの電力問題に対する有力な解決策と考えられています。
- 安定供給:24時間365日稼働可能
- スケーラブル:需要に応じてモジュール増設可能
- 環境対応:CO₂排出ゼロでESGに適合
- 設置柔軟性:都市近郊や施設内にも設置可能
ただし、初期コストや規制審査の長期化、社会受容性といった課題も残ります。
おわりに
SMRは、AI・クラウド時代の電力課題に対する戦略的な解決策であり、今後の技術進化と政策整備次第では、電力供給のパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。
今後の動向に注目しつつ、日本企業の技術と米国の需要が交差するこの分野に、私たちも関心を持ち続けるべきでしょう。

