はじめに ― 「貼る材料」が先進半導体を支える
半導体製造の工程では、ウェハの固定やチップの保護、搬送など、多くの場面で「テープ」が用いられます。
従来は単に補助材料とみなされてましたが、ウェハの薄化、チップレット化、ファンアウト型パッケージ(FOWLP)などの進展により、テープにはこれまでにない精密性・機能性が求められます。
例えば、1枚のウェハを100µm以下まで薄化、数千個の微小チップを再構成して封止する工程では、わずかな粘着力の差や熱膨張の違いが、歩留まりに大きく影響します。
本記事では、これら半導体製造に用いられるテープについて整理しました。
ウェハ薄化を支える ― バックグラインドテープ(BGT)
役割と特徴
バックグラインドテープは、ウェハ裏面を研削する際に表面の回路層を保護し、ウェハをキャリアに固定するためのテープです。
研削中は水や冷却液が大量に使用されるため、耐水性・密着安定性が特に重視されます。
次世代対応のポイント
先進パッケージでは、ウェハ厚20〜30µmまでの極薄化が一般的となり、テープには以下のような性能が求められます。
- 低応力での剥離性:剥離時の反り・割れを防止
- 耐水性の高い粘着剤:長時間研削後も粘着力が変化しない
- UV剥離型BGT:研削後にUV照射で粘着を低下させ、次工程へスムーズに移行
主なメーカーは、日東電工、リンテック、マクセルなどが挙げられます。
微細チップ化への対応 ― UVダイシングテープ
用途と機能
ダイシング工程では、ウェハをチップ単位に切断するためにダイシングテープで固定します。
しかし、チップの厚みが極薄化し、サイズも数mm以下になると、ピックアップ時に粘着が強すぎるとチップの破損や裏面の剥離を引き起こします。
そこで開発されたのが、UV硬化型ダイシングテープです。
ダイシング時は強い粘着でウェハを保持し、ピックアップ時にUV照射で粘着力を一気に低下させる仕組みです。
最新技術トレンド
- 高透過性粘着剤:波長365nmでのUV透過率を均一化し、チップ全面で均一剥離を実現
- 低残渣化設計:粘着剤残りを数nmレベルで制御し、後工程の接着不良を防止
- 基材の極薄化(25µm以下):薄ウェハに追従し、寸法安定性を高める
主なメーカーは、マクセル、住友ベークライト、リンテック、古河電気工業、日東電工などが挙げられます。
【従来型ダイシングテープーUVダイシングテープ性能比較】
項目 | 従来型ダイシングテープ | UVダイシングテープ |
粘着制御 | 固定粘着力(感圧型) ピックアップ時に剥離力が残る | UV照射により粘着力を急低下 ピックアップ時に低応力で剥離可能 |
残渣性 | 粘着剤残りが発生しやすく 後工程で接着不良の原因に | 低残渣設計(数nmレベル) 後工程の信頼性向上 |
基材厚 | 標準厚(50〜100µm) 薄ウエハには不向き | 極薄基材(25µm以下)対応 薄型チップに追従性あり |
寸法安定性 | 加工時の熱・応力で伸縮しやすい | 高寸法安定性設計 微細チップの位置精度を維持 |
剥離応力 | ピックアップ時にチップ破損リスクあり | UV照射で粘着力を制御 低応力で安全に剥離可能 |
対応チップサイズ | 数mm以上の標準サイズが中心 | 数百μm〜数mmの微細チップに対応 |
工程適合性 | 従来型パッケージ工程向け | FOWLP、チップレット、3D積層など先進後工程に最適 |
ファンアウト/チップレット構造を支える ― リコンスティチュートテープ
新しい工程に登場したテープ
近年、ファンアウトウェハレベルパッケージ(FOWLP)やチップレット再構成(Reconstituted Wafer)の採用が急拡大しています。
これらの工程では、切り出したチップを再配置し、封止樹脂でウェハ状に再構成しますが、その際に使われるのが「リコンスティチュートテープ」です。
求められる技術特性
このテープは、単なる固定材ではなく、再構成ウェハの精度そのものを決定づける材料です。
要求性能は以下の通りです。
- 寸法安定性:300mm以上の再構成時でも、熱膨張による歪みを最小化
- 低アウトガス性:樹脂封止時のボイドやクラックを防止
- 低残渣・真空貼り付け適性:自動貼付機で均一に貼れる表面特性
再構成後は剥離されるため、剥離時の応力制御も重要です。
主なメーカーは、リンテック、日東電工、古河電工などが挙げられます。
高熱・高密度パッケージを支える ― ダイアタッチフィルム(DAF)
接着工程の革新
ダイアタッチフィルムは、チップをリードフレームや有機基板に固定するフィルム状接着剤である。
従来の液状エポキシ接着剤では、塗布ムラやボイドが発生しやすかったため、フィルム化により均一な厚み・気泡のない接着が可能となりました。
先進後工程での進化
AI/HPC向けの高出力チップやHBMパッケージでは、発熱量が大きく、DAFには次の特性が求められます。
- 高熱伝導率(10 W/m·K以上)
- 低CTE・高弾性制御による熱応力低減
- リフロー工程への耐性・高信頼性
さらに、「UV-DAF」と呼ばれるダイシングテープとダイアタッチを一体化した複合材も登場し、「ダイシング」→「ピックアップ」→「実装」までの連続処理が可能となり、工程短縮・歩留まり改善を実現しています。
主なメーカーには、Resonac(旧日立化成)、古河電気工業、日東電工などが挙げられます。
封止・離型工程の新材料 ― モールディング/熱剥離テープ
モールド成形を支える裏方
ファンアウトパッケージでは、再構成ウェハを封止樹脂で固める成形工程があります。
このとき、不要な領域を覆って樹脂流入を防ぐ、あるいはモールド後に容易に剥離するために使用されるのが「モールディングテープ」です。
要求特性と動向
- 高耐熱(250℃以上):封止成形時の高温に耐える
- 低残渣・剥離性の高さ:成形後の樹脂汚染を防止
- 寸法安定性:加熱・冷却での伸縮が少ない
また、封止後に熱で粘着力が低下する「熱剥離テープ」は、パッケージ自動搬送工程での省人化にも寄与しています。
主なメーカーには、3M、日東電工、LINTECなどが挙げられます。
今後の展望 ― テープが主役になる先進後工程
今後の先進パッケージでは、チップレット構造や3D積層が主流となり、工程ごとに必要なテープ性能はさらに細分化・高機能化が必要となります。
開発動向 | 概要 |
UV+熱複合制御 | UV照射+加熱による段階的粘着制御。極薄チップ対応。 |
極薄型テープ(10µm以下) | ファンアウト用樹脂との一体化を容易に。 |
高熱伝導粘着剤 | AI/HPC向けに放熱経路を補助。 |
環境対応型基材 | PET代替のバイオベース樹脂などが実用化段階へ。 |
テープ技術は、工程設計そのものを左右する先端プロセス材料の役割となっています。
とくにFOWLP・2.5D・3D積層といった後工程の競争力は、テープ材料の選定と使いこなしによって大きく変化するでしょう。
まとめ
次世代半導体の世界では、「ナノレベルの設計」を支えるのは、意外にも「ミクロン厚のテープ」です。
UV制御、熱応答、弾性設計、ガス制御など、化学・材料・機械技術の総合力が結集したのが、これらの高機能テープです。
テープの進化は、チップレット構造と先進後工程の成功を左右する重要な要素となっています。