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次世代MEMSとは何か?市場拡大の鍵を握る新構造・新素材・製造技術を徹底解説

半導体
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MEMSとは ― マイクロマシンの原点を理解する

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、「電子回路(Electrical)」と「機械構造(Mechanical)」を一体化した微小システムであり、微細な機械動作を電気信号として制御する技術です。
半導体製造技術を応用して、シリコン基板上に数μm~数百μmスケールの構造体を形成し、圧力・加速度・流量・音など、物理現象を検知・操作できます。

MEMSの基本構成

MEMSは、以下の基本構造で成り立ちます。

  1. センサー部:圧力、加速度、磁場などの外的変化を検出
  2. アクチュエータ部:電気信号で物理的動作を生み出す
  3. 電子制御回路部:検出信号を処理し出力する
  4. パッケージ/インターフェース部:外部接続と保護

MEMSが広がった背景

MEMSの誕生は1970年代にさかのぼります。
半導体加工技術(フォトリソグラフィ、ドライエッチング、薄膜形成)を機械構造の製作に応用することで、高精度かつ量産性の高い微小機械が実現しました。

1980年代には自動車用圧力センサー、1990年代には加速度センサー、そして2000年代以降はスマートフォンやウェアラブル機器に搭載され、世界中で数十億個規模が生産されるようになっています。

MEMSの種類と次世代MEMSの位置づけ

MEMSといっても、用途や動作原理により多様な種類が存在します。

以下に主なMEMSの分類と特徴を示します。

MEMSの主な種類と特徴

種類構造・動作原理主な特徴主な用途
センサーMEMS機械的変位・圧力・加速度を電気信号に変換(ピエゾ抵抗・静電容量式など)高感度・低消費電力スマホ加速度センサー、自動車圧力センサー、
産業計測
アクチュエータMEMS電気信号を力・運動に変換(静電・熱・圧電駆動)微小で高速応答インクジェットノズル、ミラー制御
RF-MEMS微小機械スイッチで高周波信号を制御低損失・高線形性5G/6G通信用アンテナスイッチ
光MEMS(MOEMS)微小ミラー・導波路を動作させ光を変調・反射高速・精密LiDAR、AR/VRディスプレイ
Bio-MEMS微小流路・マイクロチャンネルを利用微量検体の処理が可能医療診断チップ、ドラッグデリバリー
パワーMEMS熱・振動を電力に変換自立稼働が可能エネルギーハーベスティング

次世代MEMSと従来MEMSの違い

次世代MEMSは、ナノ・バイオ技術や3D構造・複合材料を融合した革新的なマイクロデバイスであり、従来MEMSと比べて高機能・高集積・低消費電力・多用途化が進んでいます。

次世代MEMS vs 従来MEMSの比較一覧表

項目次世代MEMS従来MEMS
原理ナノ・バイオ融合、エネルギーハーベスティング、 環境応答型構造などシリコン基板上の微細加工による機械・電気融合
構造3D構造、複合材料、 マルチ機能統合(センサー+アクチュエータ+通信)2D平面構造が中心、単一機能部品
機能多機能センサー(健康管理、環境検知、AI連携)、 自律動作加速度・圧力・ジャイロなど単機能センサー
製造工程常温接合、DRIE深掘り技術、3Dプリント、Lab-in-Fab統合製造フォトリソグラフィ+エッチング+接合
コスト高機能化により初期コスト高だが、省電力・高歩留まりで長期的に低コストウエハ単位の量産で低コスト
用途環境・エネルギー(浄化・検知)、医療・福祉(体内留置・健康管理)、安全・安心(壁紙型センサー)スマホ、車載センサー、医療機器

MEMSの多様化が意味すること

従来MEMSは、加速度・圧力・温度などのセンシング用途が中心でした。
しかしIoTやAI時代の到来により、MEMSは単なるセンサーではなく、「物理世界をデジタル世界へ橋渡しするインターフェース」としての役割を担うようになっています。

  • MEMSは“データの入口”を形成
  • AI半導体やクラウドが処理する情報の源泉
  • 機械・通信・医療・エネルギー分野への拡張が進行中

次世代MEMSの特徴

従来MEMSとの違いは、「小型化」ではなく「高機能化と集積化」にあります。

次世代MEMSの主な特徴

  • 3D積層構造化:MEMS層とCMOS制御回路を一体形成
  • 新素材採用:SiC、GaN、グラフェン、ポリマーなど
  • 多機能化:センシング・演算・通信を単一デバイス内で統合
  • パッケージ革新:ウエハレベルパッケージ(WLP)で低コスト量産
  • 知能化MEMS:AIチップ連携でデータ解析をチップ内で行う

次世代MEMSと従来MEMSの製造工程の違い

次世代MEMSと従来MEMSの生産工程では、「機械構造を形成するための立体加工」が大きな違いです。

次世代MEMSと従来MEMSの製造工程比較

MEMS製造工程を「ウエハからの工程順」に沿って、従来MEMSと次世代MEMSの違いを工程毎に比較します。
ちなみに、製造工程の基本フローは似ていますが、工程内容と技術は大きく異なるため、製造工程は同じとは言えません。

MEMS製造工程の工程順比較:従来MEMS vs 次世代MEMS

工程順序工程名次世代MEMSの進化・新技術従来MEMSの技術内容
ウエハ準備多素材対応(ガラス、ポリマー、金属、フレキシブル基板)単結晶Siウエハ、SOIウエハ
フォトリソグラフィEUVリソグラフィ、ナノインプリントによる高精度・低コスト化紫外線露光によるパターン形成
エッチングDRIE(深掘りイオンエッチング)、ナノ構造形成ウェット/ドライエッチング、等方/異方性処理
犠牲層形成・除去高選択性エッチング、バイオMEMS向け犠牲層技術可動構造形成のための犠牲層(SiO₂など)
薄膜形成原子層堆積(ALD)、圧電膜・磁性膜・バイオ膜の複合形成CVD、PVD、スパッタリングによる単層膜形成
構造形成3D積層構造、3DプリントMEMS、フレキシブル構造形成表面/バルクマイクロマシニング
接合・封止常温接合(SAB)、低温封止、異種材料接合高温陽極接合、ガラス接合
回路統合SoC統合、センサー+制御+通信の一体化(Smart MEMS)外部ICとの接続
検査・評価リアルタイム検査、AIによる欠陥検出・プロセス最適化外部工程での後工程検査
量産対応300mm対応、Lab-in-Fab方式、高荷重ボンドチャンバー200mmウエハ中心

次世代MEMSを支える製造装置とプロセス技術

次世代MEMSの実現には、半導体と同等レベルの装置精度が求められます。
代表的な工程と装置を以下にまとめます。

工程主な装置技術ポイント代表メーカー
成膜ALD、CVD、スパッタナノ厚制御・高均一性東京エレクトロン、サムコ、アプライド
エッチングDRIE、プラズマ高アスペクト比構造形成SPTS、オックスフォード
ウエハ接合陽極・熱圧接・レーザMEMS+CMOS積層EVG、SÜSS MicroTec
パッケージTSV、WLP小型化・熱管理ASMPT、DISCO
テスト非接触検査MEMS動作評価KLA、STS

次世代MEMSの市場動向と用途展開

世界のMEMS市場は、2024年時点で約170億ドル(約2.6兆円)。
2030年には、300億ドル(約4.5兆円)規模へ成長すると予測されています。
このうち、次世代MEMSが占める割合は約1/3(100億ドル)に達すると見られています。

分野別市場推移(「Mordor Intelligence」や「Yole Group」の市場レポート から引用)

分野主な用途2024年2030年成長率主な企業
センサーMEMS加速度、圧力、ジャイロ$9.0B$13.5B1.5倍Bosch、STMicro
RF-MEMS通信スイッチ$2.1B$5.0B2.4倍Qorvo、Broadcom
光MEMSLiDAR、AR/VR$1.4B$4.2B3.0倍Sony、TI
Bio-MEMS医療診断、DDS$1.0B$3.0B3.0倍Abbott、TDK
MEMS全体$17B$30B1.8倍
次世代MEMS推定$10B

成長の要因

  • 5G/6G通信の普及 → RF-MEMS需要拡大
  • 自動運転・ADAS → LiDAR搭載率上昇
  • ウェアラブル医療 → Bio-MEMS普及
  • AIデバイス → MEMSセンサー連携増加

MEMSは単体市場に留まらず、IoT・AI・自動車・医療の中核要素技術として再定義されています。

次世代MEMSが変える未来と、次世代半導体を使わずに選ばれる理由

次世代MEMSがもたらす未来像

■ 物理世界のリアルタイムデジタル化

次世代MEMSでは、センサー群がネットワーク化され、「環境そのものが知能を持つ」社会が予想されます。

■ 「電力を使わないIoT」への進化

パワーMEMS技術を活用したエネルギーハーベスティングにより、電池交換不要のIoTデバイスが普及。
農業・インフラ・医療など、電源確保が難しい環境でも自立稼働が可能か。

■ 医療・ライフサイエンスの微小化

Bio-MEMSにより、血液1滴で多項目診断が可能なオンチップ検査システムが登場。
ポータブル医療や個人モニタリングの基盤技術が進化。

次世代半導体ではなく次世代MEMSを選ぶ理由

項目次世代MEMS次世代半導体コメント
主目的計測・物理検出計算・情報処理補完関係
コスト低(従来装置流用可)高(EUV・先端ノード)設計自由度が高い
動作対象物理・化学信号電気・論理信号IoTセンサーの最前線
消費電力超低自立稼働が可能
開発期間特定用途への迅速対応
導入障壁スタートアップに適す

次世代MEMSは「演算を担う半導体」と異なり、“物理世界のデータ化”という最前線を担う技術です。

演算性能よりも、

  • 高感度なセンシング
  • 超小型・低消費電力
  • 環境自立型の動作
    が重視される分野で、次世代半導体ではなく次世代MEMSが選ばれます。

まとめ ― MEMSから始まる「フィジカルAI」の時代へ

次世代MEMSは、AI・通信・半導体の“前段階”を支えるフィジカル層技術です。
AIが「考える」なら、MEMSは「感じ取る」存在です。

  • MEMSはAIやクラウドが扱うデータの入口
  • 次世代MEMSは自立的にセンシング・発電・通信を実現
  • 半導体+MEMSの融合がスマート社会の基盤になる

フィジカルAI(Physical AI)と呼ばれる時代において、MEMSは「人間の五感を模倣する電子の感覚器官」として中心的な役割を果たすでしょう。

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