2025年4月1日より「高年齢者雇用安定法」に基づき、65歳までの雇用確保が義務化され、また、企業によっては定年制を廃止にしていく企業が増えています。
定年廃止による企業へのメリット、デメリットは何か。
それに伴う今後の働き方はどうすべきなのか。
定年廃止がもたらすメリット・デメリット
定年を廃止すると企業にもたらすメリットとデメリットは、企業の規模で異なるでしょう。
大企業への影響と中小企業への影響に区分し紹介します。
大企業における課題と対処
課題
- 人件費の増加
高齢従業員の賃金が上昇し続けると、全体の人件費が増加する可能性となる。 - ポストの停滞
上位職のポストが空かず、若手社員の昇進機会が減少する。 - スキルの陳腐化
高齢従業員が最新技術や新しい働き方に対応できない場合がある。 - 健康管理
高齢化に伴う健康リスクや職場環境の調整が必要となる。
対処
- 役割や職務の再設計
年齢に応じた役割の見直しを行い、専門性や経験を活かせるポジションを新設する。 - ジョブ型雇用の導入
年齢に関係なく成果主義に基づく評価・報酬制度を導入する。 - リスキリング(再教育)プログラム
デジタルスキルやマネジメントスキル向上のための社内研修や外部講座を提供する。 - フレキシブルな働き方の導入
テレワークや時短勤務など、健康に配慮した柔軟な働き方を促進する。
中小企業における課題と対処
課題
- 財政負担の増大
賃金や退職金制度が継続できない場合がある。 - 採用と育成のバランス
若手の新規採用や育成が疎かになる可能性がある。 - 専門知識の限界
高齢従業員が持つ知識が固定化され、新たな視点やアイデアが入りにくくなるリスクが考えられる。 - 健康・安全管理
小規模な組織では、健康管理システムや安全基準の整備が遅れることがある。
対処
- 賃金体系の見直し
年功序列から職務給やスキル評価に移行し、財務負担を抑制する。 - 知識継承の仕組み化
OJTやメンター制度を活用し、高齢従業員の経験を次世代に引き継ぐ。 - 定年廃止後の雇用条件の明確化
契約社員化やパートタイム契約を導入して柔軟に対応する。 - 外部リソースの活用
健康管理や研修は、専門機関や地域団体と連携することで解決を図る。
共通する対策
- 高齢者雇用助成金の活用
政府の補助金を活用して財政負担を軽減する。 - 多様なキャリアパスの提供
高齢者が希望に応じてキャリアを選べる環境整備をする。 - 健康経営の推進
健康診断やメンタルヘルス対策を強化する。
定年廃止による対象者の現状と今後
現在の働き方
定年廃止の対象者(おおむね60歳以上)は、以下のような働き方をしていることが多い。
継続雇用制度による働き方
- 現状:
60歳を定年とした後に再雇用制度を利用し、契約社員やパートタイムとして働き続けるケースが多くの企業で採用されています。 - 特徴:
フルタイムではなく、週3~4日の勤務に減少した働き方。
この場合、賃金は現役時代より下がることが多い。
主にサポート業務や後輩育成、専門性を活かした業務を担当することが多い。
フリーランス・個人事業主としての働き方
- 現状:
定年後、独立してコンサルタントやフリーランスとして働いています。 - 特徴:
今までの経験やスキルを活かして自由度の高い働き方を選択します。
自分のペースで働ける反面、収入が不安定となることがあります。
新しい分野への挑戦
- 現状:
退職後に異業種へ転職したり、趣味を活かして働く人も増えています。 - 特徴:
地域活動やボランティアを通じて社会とつながる働き方。
高齢者向けの起業支援を活用して小規模ビジネスを始める。
今後の働き方の展望と提案
柔軟な働き方の追求
- 提案
フレックスタイム制やテレワークの利用を増やすことで、体力的な負担を軽減しながら働ける環境を整える。
短時間勤務やプロジェクト単位での働き方も検討できます。
専門性を活かした働き方
- 提案
過去の経験やスキルを活かし、アドバイザーやメンターとして若手社員を指導する。
専門分野に特化したプロフェッショナル人材としての役割となる。
趣味や興味を仕事にする働き方
- 提案
趣味や興味を活かした仕事を選ぶことで、働く楽しさと生きがいを両立させる働き方。
例えば、 趣味の写真を活かしてフォトグラファーとして活動、ガーデニングの知識を生かした講師業など。
社会貢献型の働き方
- 提案
地域活動やNPO法人への参画を通じて、社会に役立つ働き方を選択します。
定年後の余暇時間を活用し、地元でのコミュニティ支援や教育ボランティアに取り組む方法があります。
自己成長を重視した働き方
- 提案
リスキリング(再教育)を通じて、新しいスキルを習得し、次世代の産業分野(IT、デジタル関連など)への転職や副業に挑戦をする。
オンライン学習プラットフォームや企業の研修プログラムを活用する。
働き方を選ぶ際のアドバイス
- 健康管理を最優先
長く働くために、定期的な運動や食事管理を徹底しましょう。 - 柔軟性のある選択をする
働き方を一つに固定せず、体力やライフステージに合わせて変化させることを考えましょう。 - 社会とのつながりを大切に
働く目的を「収入」だけでなく、「社会参加」や「生きがい」にも広げる考えをとりましょう。
欧米・アジアの企業における定年制の有無と体制
海外の動向に目を向けてみましょう。
主な外国の定年制に関連した内容を紹介します。
アメリカ
- 定年制の有無
法的に強制される定年制度はほぼ存在しません。
1986年の「高齢者雇用差別禁止法(ADEA)」により、年齢を理由にした退職の強制が禁止されています(例外として、一部の役職や特定業界には適用外のケースがあります)。 - 体制
年齢ではなく、パフォーマンスや業績評価に基づいて雇用が継続される「ジョブ型雇用」が主流です。日本もこの流れに動いていることを感じます。
企業年金や401(k)プランなどの退職後の生活支援制度が整備されており、対象者は退職する時期(年齢)は本人が決めています。
イギリス
- 定年制の有無
2011年に「公正退職年齢制度(Default Retirement Age, DRA)」が廃止され、強制定年制が撤廃されました。 - 体制
従業員が希望すれば働き続けられる仕組みが一般化です。
高齢者が働きやすい環境整備(柔軟な勤務時間、リスキリング)が推進されています。
ドイツ
- 定年制の有無
65歳または67歳を定年とする企業が多いようです。
しかし、法的には継続雇用も可能となっています。 - 体制
雇用契約終了後も、年金受給の開始年齢に応じた働き方を選択できるようです。
生産性を維持するため、高齢者向けの専門研修が普及しています。
中国
- 定年制の有無
男性は60歳、女性は55歳または50歳が定年とされています。ただし、高齢者の労働力活用が進む中、定年延長が検討されています。 - 体制
大手企業では、経験豊富な従業員を短期契約で再雇用するケースが増加しています。
若年層の雇用確保とのバランスが課題となっているようです。
韓国
- 定年制の有無
60歳以上と定められています。
ただし、定年を60歳未満に定めた場合でも、事業主は処罰されないようです。 - 体制
賃金ピーク制(一定年齢で賃金を減額)を導入し、企業負担を軽減しています。
高齢者向けの職務を新設し、役割分担を調整しています。
日本企業が定年廃止を進める狙いとは
労働力不足への対応
- 背景
日本では少子高齢化が進み、生産年齢人口(15~64歳)が減少しています。
そのため、企業は貴重な労働力である高齢者を活用する必要があります。 - 狙い
定年廃止により、働きたい意欲や能力のある高齢者を継続的に雇用し、人手不足を補います。
経験や知識の活用
- 背景
ベテラン従業員が持つ高度なスキルやノウハウ、人的ネットワークは、企業にとって重要な資産です。 - 狙い
定年廃止により、知識や経験を社内に残し、若手社員への教育やプロジェクト推進に役立てます。
高齢者の多様な働き方の実現
- 背景
高齢者の中には、年金だけでは十分な生活ができない人も多く、働き続けることを望む声が増えています。 - 狙い
定年を廃止し、柔軟な雇用形態を提供することで、従業員の生活安定や意欲を維持しつつ、企業もメリットを享受します。
働き方改革の推進
- 背景
長時間労働を是正し、多様な人材が活躍できる職場環境を整備する「働き方改革」が進められています。 - 狙い
年齢にとらわれない公平な雇用制度を整え、多様なキャリアを選べる柔軟な体制を構築します。
年齢に応じた賃金制度の見直し
- 背景
年功序列型の賃金制度は、高齢化が進む中で企業にとって財政負担が大きいという問題があります。 - 狙い
定年を廃止する代わりに、ジョブ型雇用や成果主義賃金を採用し、経営資源を効率的に配分します。
社会的課題への対応
- 背景
高齢者の雇用促進は、社会保障制度の維持や高齢化社会の安定にも寄与します。 - 狙い
定年廃止により、企業が社会の一員として責任を果たし、持続可能な社会の実現に貢献します。
日本企業 定年の歴史
ここで、過去 日本企業の定年制の歴史を覗いてみましょう。
戦前・戦後直後(昭和20年代以前)
- 定年年齢
明確な定年制がない企業が多かった時代ですが、一部の大企業では55歳が定年とされていたようです。 - 背景
終身雇用の考え方が根付き始め、企業が長期的な雇用を重視するようになった時代です。
55歳が働ける体力の限界と見なされていたようです。
高度経済成長期(昭和30~40年代)
- 定年年齢
55歳が一般的だった模様。 - 背景
高度経済成長により、若年層の雇用を優先する必要があったようです。
企業は若い世代を多く雇用することで、生産性を維持しようとしてました。
高齢者には早期退職後の再雇用や、定年後の農業従事が推奨されることもあったようです。
昭和50年代(1970年代後半~1980年代)
- 定年年齢
60歳が徐々に一般的となっていきました。 - 背景
高齢化社会の進行を見据え、定年年齢の引き上げが検討されました。
労働基準法の改正(1986年)で60歳定年が努力義務として定められ、多くの企業が55歳から60歳に移行しました。
年金受給開始年齢(当時は60歳)と合わせた形で定年が設定される傾向がありました。
平成期(1990年代~2010年代)
- 定年年齢
60歳が法的に義務化されました(1994年施行の改正高年齢者雇用安定法)。 - 背景
少子高齢化が進み、高齢者の雇用継続が問題となっていました。
政府が企業に対し、高齢者雇用を促進するための制度を導入しました。
定年後の継続雇用制度(再雇用制度や契約社員化)が普及していきました。
令和期(2020年代)
- 現状
多くの企業で、60歳定年+再雇用制度(65歳まで) が一般的となってきました。
2021年の改正高年齢者雇用安定法により、65歳以上の雇用機会確保措置が努力義務化されました。 - 背景
年金受給開始年齢が65歳に引き上げられたことや、さらなる高齢化社会への対応が必要となっていきました。
一部企業では定年を65歳以上に引き上げたり、定年を廃止する動きもでてきました。
まとめ
定年制の問題、年金問題、など 定年後の働き方は、早い年齢で考える必要がとなった時代と思います。
年金については、定年退職者のみの問題ではなく 現在の生産年齢者にも将来、大きく影響する問題です。
社会の動向や政府の対応など、注力すべきことと考えます。