半導体業界の構造:市場規模・主要プレイヤー分析と2030年までの成長シナリオ

ad03
ビジネス
スポンサーリンク
スポンサーリンク

スマホからAI、EV(電気自動車)に至るまで、私たちの生活に欠かせない存在となっている半導体。その重要性が世界中で高まる中、半導体業界の構造や市場規模、主要企業の強みと弱みを整理し、半導体業界の成長シナリオを解説します。

半導体業界の業界構造

半導体業界は、複雑なサプライチェーンと高度に専門分化された役割によって成り立っています。

その構造は、6つに分類できます。

設計(ファブレス/IDM設計部門)

  • 役割:半導体チップの回路やアーキテクチャを設計します。
  • 主な企業:
    NVIDIA(GPU)(米国)
    Qualcomm(通信向けSoC)(米国)
    AMD(CPU、GPU)(米国)
    Apple(自社設計のMシリーズチップ)(米国)
  • 特徴:工場を持たず、製造はファウンドリに委託します。これを「ファブレス」と呼びます。

製造(ファウンドリ/IDM製造部門)

  • 役割:設計されたチップを実際に製造します。
  • 主な企業:
    TSMC(世界最大のファウンドリ)(台湾)
    Samsung(IDM+ファウンドリのハイブリッド)(韓国)
    Intel(自社設計・自社製造の典型的IDM)(米国)
  • 特徴:
    ファウンドリ(受託生産専業)
    IDM(自社設計・自社製造・自社販売を一貫して行います)

パッケージング・テスト(OSAT)

  • 役割:製造されたチップをパッケージ化し、電気的に検査します。
  • 主な企業:
    ASE(台湾)
    Amkor(米国)
    JCET(中国)
  • 特徴:
    チップを最終製品に組み込めるよう加工・検査する工程です。
    高性能化により重要度が増しています(例:3Dパッケージ、チップレット)。

半導体製造装置メーカー

  • 役割:ウエハー加工や露光、エッチング、成膜などを行う装置を提供します。
  • 主な企業:
    ASML(EUV露光装置)(蘭)
    東京エレクトロン(成膜・エッチング装置)(日本)
    アプライドマテリアルズ(米国/総合装置メーカー)(米国)
  • 特徴:1台数百億円にもなる超精密機械で、技術力が重要です。

材料・部材メーカー

  • 役割:シリコンウエハー、フォトレジスト、ガスなどの素材・部材を供給します。
  • 主な企業:
    信越化学工業(ウエハ)(日本)
    SUMCO(ウエハ)(日本)
    JSR、東京応化(レジスト)(日本)
  • 特徴:先端プロセスの高度化に伴い、超高純度の素材や先進材料の需要が急増しています。

最終製品メーカー(セットメーカー)

  • 役割:完成した半導体を組み込み、最終製品として消費者や企業に提供します。
  • 主な企業:
    Apple (i-Phone)(米国)
    Tesla(自動車)(米国)
    Huawei(スマホ・通信機器)(中国)
    Samsung(スマホ・通信機器)(韓国)
  • 特徴:ユーザー視点での機能開発に取り組みます。半導体の性能開発が製品の競争力に直結します。

半導体業界の特徴的な構造

  • 水平分業と垂直統合の混在
    「ファブレス型」+「ファウンドリ型」:NVIDIA+TSMCのように分業が進んだ構造が特徴的です。
    「IDM型」:IntelやSamsungのように自社で全工程を完結させるモデルを行う企業があります。
  • 地理的分散
    設計:米国・中国・日本
    製造:台湾・韓国・アメリカ
    材料・装置:日本・アメリカ・オランダ
    組立・テスト:東南アジア(マレーシア・フィリピンなど)
  • 高度な国際依存
    各国の企業や地域が強みを分担しているため、サプライチェーン全体の安全保障・安定性が重要課題になっています。

半導体市場規模

半導体チップ市場

2024年実績:約6,276億ドル(約94兆円)(前年比19.1%増)

  • 主なセグメント:
    ロジック(SoC、CPU、GPUなど):最先端技術が求められ、AIや5G向けに需要が急増。
    メモリ(DRAM、NAND):スマートフォン、サーバー、PCなど幅広い用途で安定需要。
    アナログ:電力制御、信号処理などに活用され、自動車や産業機器で欠かせない存在。
    センサー:イメージセンサー、温度・加速度センサーなど、IoT時代の重要パーツ。
  • 2024年半導体企業売上高トップ10(ガートナーの資料より)
No企業名売上高
(億ドル)
増減率 (%)
1韓)サムスン電子66562.5
2米)インテル4910.1
3米)エヌビディア45983.6
4韓)SKハイニクス42886.0
5米)クアルコム32310.7
6米)マイクロンテクノロジー27972.7
7米)ブロードコム2767.9
8米)AMD2397.4
9米)アップル1884.6
10独)インフィニオンテクノロジーズ160-6.0

半導体製造装置市場

2024年実績:約1,090億ドル(約16兆円)

  • 主なカテゴリ:
    露光装置:微細化技術へのEUV(極端紫外線)を用いた装置はASMLが独占供給。
    成膜装置:チップ上に膜を形成する工程。東京エレクトロン、LAM Researchが主力。
    エッチング装置:不要な部分を削る装置。精密さと速度が求められる。
    洗浄装置・アッシング:製造後の微粒子・不純物除去が良品率に直結。
    検査・テスト装置:完成品の品質保証を担う。アドバンテスト、KLAが主要企業。

半導体材料・部品市場

2024年実績:約675億ドル(約10兆円)

  • 主な分野:
    シリコンウエハ:信越化学、SUMCOが高品質ウエハを供給。
    フォトレジスト・感光材:JSR、東京応化がEUV対応材料を開発。
    高純度ガス・化学薬品:昭和電工、ダイキンが多品種をグローバル展開。
    CMPスラリー・パッド:日立化成(現昭和電工マテリアルズ)などが高精度研磨材を供給。

分野別の主要プレイヤーと強み・弱み

ファブレス(半導体設計専業)企業

企業名強み弱み・リスク
NVIDIA・GPUとAI半導体市場で圧倒的シェア
・ソフトウェアエコシステムも強力 (CUDA等)
・TSMC依存の製造リスク
・中国との地政学リスク
Qualcomm・通信分野に強く5Gモデムのトップ
・スマホSoCで中価格帯をカバー
・Appleの自社開発によりシェア減少懸念
・TSMC依存
AMD・x86 CPUとGPUの両輪で競争力上昇中
・データセンター需要の恩恵
・製造をTSMCに依存(最先端プロセス)
・Intelとの競争が激化
MediaTek・価格競争力が高く中国
・インド市場に強い
・開発スピードが速い
・高性能帯でのブランド力が弱い
・AppleやQualcommにシェアを奪われやすい

ファウンドリ(受託製造)企業

企業名強み弱み・リスク
TSMC・最先端プロセスで世界首位(3nm〜)
・Apple、NVIDIAなど有力顧客多数
・地政学リスク(台湾情勢)
・製造能力の需給バランス難
Samsung・最先端設備
・EUV導入が早い
・メモリ事業との相乗効果
・歩留まりや品質でTSMCに劣後する評価あり
・外販受注が限定的
Intel・長年の製造技術資産
・米政府支援(CHIPS法)による再建投資
・技術遅れの挽回中(TSMCに大幅に遅れ)
・利益率が低下中
UMC・成熟プロセスに特化し安定収益
・コスト競争力がある
・先端プロセスへの対応が困難
・競争優位が限定的

IDM(設計・製造一体)企業

企業名強み弱み・リスク
Intel・x86 CPUのブランド力
・自社ファブと設計両面の技術資産
・TSMCに製造技術で遅れ
・ファウンドリ事業が軌道に乗るか不透明
Samsung・DRAM/NANDで世界首位
・スマホ向けSoCも自社製造
・競争が激化(Micron、SK hynix)
・半導体価格変動に収益が大きく依存
Micron・高性能DRAM、HBMの開発力
・AI向けメモリでNVIDIAと連携
・DRAM/NANDの価格変動が激しい
・中国からの輸出規制リスク
Texas Instruments・アナログICで長期安定収益
・産業/自動車用で需給安定
・成長率は相対的に低め
・先端プロセス競争に直接関わらない

半導体製造装置メーカー

企業名強み弱み・リスク
ASML・EUV露光技術で独占的地位
・高収益モデル(数十億円/台の装置)
・単一技術への依存が大きい(EUV)
・納期が長く供給制約が起きやすい
東京エレクトロン・成膜/エッチングで高シェア
・装置ポートフォリオが広い
・中国向け輸出規制の影響大
・EUV分野ではASMLに依存
Applied Materials・装置の総合力があり多分野対応可能
・世界最大の装置メーカー
・競争激化(LamやTELなど)
・装置市場自体が景気に敏感
アドバンテスト・半導体テスト装置で世界首位
・AI、高性能SoCのテスト需要が追い風
・製造装置に比べて市場規模は小さめ
・顧客が一部に集中する可能性

素材・部品メーカー

企業名強み弱み・リスク
信越化学工業・シリコンウエハー世界首位
・高品質で安定供給
・需給バランスや原料コスト変動の影響を受けやすい
SUMCO・ウエハ事業に特化
・最先端EPIウエハに対応
・ウエハ単一事業依存で景気変動に弱い
JSR・EUV対応レジストをいち早く開発
・材料開発力が高い
・フォトレジスト以外への依存度が低い(事業の集中)
ダイキン工業・半導体用特殊ガスの世界供給網
・環境ガス規制対応力
・市況変動と為替リスクが業績に影響

・中国と日本の主要な半導体製造装置メーカー

( )内数値は、シェア%を示す

半導体製造装置中国メーカー日本(米)メーカー
エッチング装置AMEC
NAURA
Ram (37.7)
TEL(25.3)
AMAT(23.5)
CVD装置NAURA
Leadmicro
Piotech
AMAT(35.8)
Ram(17.2)
TEL(14)
イオン注入装置Kingstone
CETC
アクセリステクノロジーズ(39.6)
AMAT(34.7)
住友重機工業(17.7)
CMP装置HwatsingAMAT(52.6)
荏原製作所(37)
コーターデベロッパー
(塗布・現像)
KINGSEMITEL(84.1)
SCREEN(3.4)

今後5年〜10年の展望

2025年〜2030年

  • AI関連チップの需要が急増し、NVIDIA、AMD、Qualcommなどがけん引。
  • EUV露光装置の普及が進み、2nm以降の量産体制が整う。
  • 日米欧での製造施設拡張(リショアリング)が加速し、インテルやTSMCが米国での生産体制強化。
  • 自動車向け半導体(特にアナログ・パワー系)が新たな成長ドライバーに。
  • 装置・材料メーカーへの長期契約型の取引が進展し、需給安定化を目指す。

中長期:2030年頃

  • 世界の半導体市場は1兆ドル(約150兆円)を超える可能性。
  • 量子コンピュータ、ニューロモーフィックチップなど新しいアーキテクチャが登場。
  • 炭素排出削減・持続可能性の観点から、製造工程のエネルギー効率・材料再利用の重要性が増す。
  • アジア(特にインド、ASEAN)での市場・供給網構築が活発化。

おわりに

半導体業界は今、かつてない規模とスピードで進化しています。

AI、自動車、IoT、量子技術など新しい技術が新たな需要を生み出し、設計・製造・装置・材料すべての分野で競争と革新が進行中です。

どの企業がどの分野で強みを持ち、どのようなリスクを抱えているのかを理解することは、業界に関わる者にとって極めて重要です。

これから業界を目指す方にとっては、興味ある分野を深掘りし、自身のキャリアの方向性を定めるヒントになりますし、すでに業界で働く皆さんにとっても、次のステップを見据えた情報の一つとして活用ください。

rakuten

タイトルとURLをコピーしました