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次世代半導体製造装置における高精度位置決めと微振動対策の最前線 ~EUV露光装置を中心に、装置設計と部品開発の視点から~

半導体
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EUV露光装置に求められる位置決め精度

EUV(Extreme Ultraviolet)露光装置は、波長13.5nmの極端紫外線を用いて、2nm以下の微細パターンをウエハー上に形成する次世代リソグラフィ装置です。

従来のArF液浸露光に比べて波長が短いため、焦点深度が非常に浅く、ウエハーの位置誤差が数nmでもパターン形成に影響を及ぼします。

そのため、以下のような高精度な位置制御が求められます:

  • ウエハーステージの位置決め精度:±1nm以下
  • レチクルステージの同期精度:±0.5nm以下
  • Z方向(高さ)の制御精度:±1nm以下
  • スキャン速度:数百mm/s以上

これらの要求を満たすには、ステージ機構・センサー・制御系・振動対策が一体となって機能する必要があります。

高精度位置決めを支えるステージ技術

EUV露光装置のステージには、以下の技術が採用されています。

1. エアベアリングステージ

圧縮空気でステージを浮上させることで摩擦をほぼゼロに抑え、滑らかな移動を実現。摩耗がなく、長期安定性に優れ、ナノメートル単位の位置決めに適しています。

2. リニアモーター駆動

磁場とコイルの相互作用により直線運動を生み出す駆動方式。高加速度・高応答性を持ち、高速かつ高精度なスキャン露光を可能にします。

3. ピエゾステージ

ピエゾ素子による原子レベルの微小変位制御が可能。Z方向やθ方向の微調整に用いられ、露光面の平坦性確保に貢献します。

位置検出と制御技術の進化

高精度な位置決めには、検出精度の高いセンサーと応答性に優れた制御系が不可欠です。

1. レーザー干渉計
光の干渉原理を利用し、nm以下の絶対位置を高精度に測定。温度変化や振動にも安定して対応可能です。

2. キャパシタセンサー
Z方向の高さ制御に使用。静電容量の変化を利用して微小な高さ変化を検出します。

3. 制御アルゴリズム
マルチループ制御(位置・速度・加速度)に加え、外乱オブザーバやフィードフォワード補償を組み合わせた制御が主流。近年では、FPGAベースのリアルタイム制御やAIによる予測補正も導入されています。

微振動対策の実装技術

微振動は位置決め精度に直結するため、装置内外での振動対策が重要です。

装置内部の対策

  • カウンターステージ:ステージ加減速時の反力を打ち消すため、反対方向に動くステージを設けます。
  • 防振マウント:真空ポンプや冷却系からの振動を遮断するため、装置内部に防振マウントを配置。
  • ケーブルベア最適化:ケーブルの引張力による微振動を防ぐため、柔軟性の高い配線設計が求められます。

設置環境の対策

  • アクティブ除振台:加速度センサーとアクチュエータにより、リアルタイムで振動を打ち消します。
  • 三次元除振床:建屋構造と一体化した除振基礎により、外部振動の伝播を遮断します。
  • 床スラブ直結設置:装置をコンクリートスラブに直接設置し、二重床の振動影響を回避します。

部品・材料選定の技術的観点

高精度位置決めと微振動対策を実現するためには、単体性能だけでなく、装置全体との整合性・環境条件・長期安定性を考慮した部品・材料選定が不可欠です。

以下の観点が重要です。

1. 精密ステージ部品の選定

  • 駆動方式:リニアモーターやピエゾ素子など、応答性と分解能に優れた方式を選定。
  • 構造材:高剛性・低熱膨張の材料(例:セラミック、Invar、CFRP)を使用し、熱変形を抑制。
  • 反力処理機構:加減速時の反力を吸収・打ち消す構造が必要。

2. センサー・検出系の選定

  • 位置検出:レーザー干渉計やナノ分解能エンコーダにより、nm以下の精度を確保。
  • 高さ検出:キャパシタセンサーや光学式センサーでZ方向の制御を実現。
  • 温度センサー:熱変形補正のため、構造材や周辺環境の温度モニタリングが必要。

3. 振動対策部品の選定

  • 除振台:アクティブ除振(STACISなど)や積層ゴム・空気ばねを用いた三次元除振床。
  • 防振マウント:真空ポンプや冷却機器からの振動を遮断するための高減衰材。
  • ケーブルベア・配線材:柔軟性と低応力設計により、微振動の伝播を防止。

 【 部品選定表(用途別):参考例 】

用途カテゴリ部品・材料名技術的特徴・選定理由
精密ステージリニアモーター(例:HIWIN)高加速度・高応答性。ナノ精度位置決めに対応。
精密ステージピエゾ素子(例:THK)原子レベルの変位制御。Z・θ軸の微調整に最適。
精密ステージセラミック構造材高剛性・低熱膨張。熱変形を抑制。
精密ステージInvar合金極低熱膨張係数。温度安定性に優れる。
検出系レーザー干渉計(例:Renishaw)nm以下の絶対位置測定。温度・振動に強い。
検出系キャパシタセンサーZ方向の微小高さ検出。静電容量変化を利用。
検出系ナノ分解能エンコーダ高分解能でステージ位置を精密に検出。
振動対策アクティブ除振台(例:STACIS)加速度センサー+アクチュエータでリアルタイム補正。
振動対策積層ゴム+空気ばね三次元除振床構成。建屋振動を遮断。
振動対策防振マウント(高減衰材)装置内の振動源からの伝播を遮断。
配線・補助高柔軟ケーブルベア引張応力を低減し、微振動を防止。
配線・補助温度センサー(例:Pt100)構造材の熱変形補正に活用。

最新の高精度位置決め技術例

2025年に発表された主な位置決め事例です。

HIWIN「ナノ精度位置決めステージ」(2025年3月発表)

HIWIN「ナノ精度位置決めステージ」

用途:PLP検査、ウエハ検査、LDI露光、白色干渉測定
特徴:リニアモーター駆動+ナノ分解能エンコーダ、自社製コンポーネントによる短納期対応、高剛性構造+反力処理機構で振動抑制
精度:±1nm以下

THK「超精密ピエゾステージ」(2025年4月発表)

THK「超精密ピエゾステージ」

用途:EUV露光、電子線描画、検査装置
特徴:ピエゾ素子による原子レベルの変位制御、サーボモータステージとのハイブリッド構成、高速応答+低ドリフト設計
精度:サブナノメートル級

住友重機械「SA/SLシリーズ」

住友重機械「SA/SLシリーズ」

用途:露光・検査装置用XYステージ
特徴:低重心H型構造、高加減速時の反力処理機構、Z・θ軸オプションによる6自由度制御対応

顕在化する課題と対策

技術の進化とともに、以下のような課題も顕在化しています:

課題1:熱変形による位置ズレ
温度変化による構造材の膨張・収縮が位置精度に影響。
対策:低熱膨張材料の採用、恒温制御システムの導入、熱源の分離設計

課題2:制御遅延による補正誤差
高速ステージ動作に対し、制御系の応答が遅れると補正が間に合わず位置ズレが発生。
対策:FPGAベースのリアルタイム制御、AIによる予測補正、制御帯域の拡張

課題3:複数ステージの協調制御
ウエハーステージとレチクルステージの同期精度が不足すると露光位置にズレが生じる。
対策:6自由度制御、干渉計による相対位置測定、協調制御アルゴリズムの最適化

おわりに

次世代半導体製造装置では、ナノメートル以下の位置決め精度と、サブナノレベルの振動制御が標準化されつつあります。

装置設計者や部品メーカーのエンジニアにとっては、単体性能だけでなく、装置全体との整合性・協調性を意識した設計思想が求められます。

今後は、AIによる振動予測、MEMSセンサーの統合、材料設計の最適化など、メカ・制御・環境の三位一体の設計アプローチが鍵となるでしょう。

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