はじめに
世界の半導体市場は、AIの急速な普及やデータセンタ需要の拡大を背景に、新たな成長局面へと移行しています。
従来の微細化競争に加え、チップレットや3D積層といった先進後工程技術が注目され、次世代半導体の設計・製造のあり方そのものが大きく変わりつつあります。
さらに、メモリ、パワーデバイス、センサなど各分野では用途ごとに異なる成長ドライバーが存在し、市場構造はますます多様化しています。
本記事では、主要な半導体カテゴリを6〜7分野に整理し、それぞれの市場規模と成長予測、そして最新技術トレンドを簡潔にまとめます。
半導体市場の基本分類

従来、半導体市場は大きく「メモリ / ロジック / マイクロ / アナログ」という4分類で語られることが一般的でした。
しかし近年は、用途ごとに成長速度や投資テーマが大きく異なるため、より精緻な分類が求められています。
特にAIやデータセンタ向けの高性能ロジック、車載向けのパワー半導体、IoTやスマートデバイスに不可欠なセンサなど、分野ごとに市場構造や成長ドライバーが多様化しています。
本記事では以下の6カテゴリを基本とし、さらに近年の分析動向を踏まえて「パワー半導体」を独立した分野として扱います。
半導体 6カテゴリ
- ロジック(CPU/GPU/ASIC/FPGAなど)
- メモリ(DRAM/NAND/次世代メモリ)
- マイクロ(MCU/MPU)
- アナログ(アナログIC、ミックスドシグナル)
- センサ & アクチュエータ(MEMS、各種センサ)
- パワー(Power Devices & Power IC)
近年、投資家や自動車産業向けの分析では、⑦ パワー半導体(SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体を含む)をアナログから分離し、独立した成長分野として扱うことが主流になっています。
2024〜2030 市場規模の全体像(概算)

(主要調査会社の公表値をベース(参考値))
| 分野 | 2024市場(B$) | 2030市場(B$) | CAGR |
| ロジック | 230–260 | 350–420 | 6–8% |
| メモリ | 155–180 | 230–300 | 6–9% |
| マイクロ(MCU/MPU) | 80–90 | 120–150 | 6–8% |
| アナログ | 90–100 | 140–170 | 6–7% |
| センサ & アクチュエータ | 30–40 | 50–70 | 7–10% |
| パワー | 32–38 | 60–80 | 10–12% |
- ロジック
AI・データセンタ向けの高性能プロセッサ(GPU/ASIC/FPGA)が牽引役となり、クラウド・生成AIの拡大に伴い堅調な成長が続く見込みです。 - メモリ
サイクル変動が大きいものの、AI学習や推論に必要な大容量・高速メモリ需要が拡大し、次世代メモリ(HBMなど)が成長を支えます。 - マイクロ
組込み用途や車載制御、産業機器での利用が拡大し、特にEVや自動運転関連での需要増が成長を支えます。 - アナログ
車載・産業機器・通信インフラなど幅広い分野で安定需要があり、IoTや5G/6Gの普及に伴い成長が見込まれます。 - センサ & アクチュエータ
スマートフォンやウェアラブル機器に加え、EVや産業IoT、モーション制御、医療機器など多方面で需要が伸びており、安定的な高成長が期待されます。MEMS技術の進化や複合センサの普及も成長要因です。
関連記事:次世代MEMSとは何か? - パワー
最も高い成長率が見込まれており、EV化・再生可能エネルギーの普及・産業電化(工場の省エネ化や電動化)といった構造的な需要が強い追い風となっています。
マーケットサイクルの違い
| 分野 | 典型的サイクル | 特徴 |
| ロジック | 技術ノード依存 | サーバ、AI、スマホ、HPC向け需要が牽引 |
| メモリ | 強い供給サイクル(価格変動が大きい) | 在庫調整・投資サイクルが顕著、景気感応度が最も高い |
| マイクロ | 比較的安定 | 車載・産業用途の長期需要に支えられる |
| アナログ | 産業・車載で安定 | 景気・設備投資の影響を受けるが基盤需要は強い |
| センサ & アクチュエータ | 新規用途が追加され継続成長 | EV、ロボティクス、IoT、医療機器など多方面で拡大 |
| パワー | 長期需要 + 技術転換(Si→SiC/GaN) | EV・再エネ・産業電化向けの投資テーマとして注目 |
- メモリ
半導体の中で最も景気感応度が高く、価格変動が市場全体を左右します。
特にDRAMやNANDは供給過剰・不足によるサイクルが顕著で、在庫調整や設備投資のタイミングが重要です。
近年はAI向けのHBM(高帯域幅メモリ)が新たな成長要因となっています。 - ロジック
技術ノードの進化に依存し、サーバ・スマホ・HPC(高性能計算)に加え、生成AI向けGPUやASICが成長を牽引しています。
先進後工程(チップレット、3D積層)の採用もサイクルに影響を与えています。 - マイクロ
比較的安定した需要を持ち、車載制御や産業機器に不可欠です。
自動運転やEV化の進展により、今後も長期的な成長が期待されます。 - アナログ
電源管理や信号処理など幅広い用途で安定需要があります。
景気や設備投資の影響を受けやすいものの、車載・産業分野の基盤需要が底堅さを支えています。 - センサ & アクチュエータ
新規用途が次々と追加される分野で、EVの安全機能、ロボティクス、IoT、医療機器、モーション制御など多方面で拡大しています。
MEMS技術の進化も成長を後押ししています。 - パワー
EV化・再生可能エネルギー・産業電化の潮流を背景に、長期的な需要が拡大。
従来のSiからSiCやGaNへの技術転換が進み、投資テーマとして最も注目度が高い分野です。
各分野の成長を支える重要技術
| 分野 | 主なキーテクノロジー | 概要 |
| ロジック | (1)先端ノード(EUV/2nm世代) (2)3D集積 (3)チップレット | HPC・AI向けを中心に微細化とチップレット化が進展。先進後工程による性能・歩留まり改善が鍵。 |
| メモリ | (1)HBM(高帯域幅メモリ) (2)3D NAND QLC/PLC (3)DDR5/LPDDR5 | AI・GPUとの結合が市場拡大の主因。HBMは生成AI需要で急成長、3D NANDは高密度化が進む。 |
| マイクロ | (1)車載向け高信頼設計 (2)低消費電力 (3)長寿命・供給保証 | EV/ADAS、産業制御、白物家電など幅広い用途で安定需要。車載品質認証が成長の前提。 |
| アナログ | (1)高精度・低ノイズ設計 (2)電源制御 (3)車載グレード対応 | 完成車の電動化や産業機器の効率化で電源制御需要が拡大。5G/6G通信でも重要。 |
| センサ & アクチュエータ | (1)MEMS技術 (2)感度・精度向上 (3)AI/エッジ分析との融合 | ADAS、ロボット、IoT、医療機器など新規用途が拡大。複合センサやエッジAI連携が成長要因。 |
| パワー | (1)SiC(炭化ケイ素) (2)GaN(窒化ガリウム) (3)車載モジュール技術 | EV化・再生可能エネルギー・産業電化が最大テーマ。ワイドバンドギャップ半導体の普及が加速。 |
- ロジック
微細化(2nm世代)とチップレット化に加え、3D積層による性能向上が進み、AI/HPC向けの需要が牽引。
先進後工程(CoWoS、Foverosなど)が競争力の分岐点。 - メモリ
AI学習・推論に不可欠なHBMが急成長。
DDR5/LPDDR5はサーバ・モバイル双方で普及が進み、3D NANDはQLC/PLCによる高密度化が進展。 - マイクロ
車載制御や産業用途で長期安定需要。
特にEVやADAS向けの高信頼設計が必須。供給保証(長期サポート)が競争力の要素。 - アナログ
電源管理ICや高精度センサが車載・産業・通信インフラで不可欠。景気変動の影響を受けつつも基盤需要は強い。 - センサ & アクチュエータ
MEMS技術の進化により小型・高精度化が進み、AI/エッジ分析との融合で新たな付加価値を創出。
ADASや医療機器での採用が拡大。 - パワー
SiC/GaNの本格普及フェーズに入り、EVや再エネ用途で急成長。モジュール化技術(インバータ、オンボードチャージャー)が市場拡大のカギ。
パワー半導体:アナログから分離すべき理由
パワー半導体は従来「アナログ」に分類されることが多かった領域ですが、近年は以下の理由から独立したカテゴリとして扱うことが一般化しています。
- 電力インフラ需要が直接拡大:EV、急速充電器、太陽光・風力発電、産業電化など、電力インフラそのものが市場を牽引。
- 材料技術の革新:SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)が従来のSiとは異なる競争軸を形成し、投資テーマとして独立性を持つ。
- 調達構造の変化:車載Tier1やOEMがパワー半導体を直接調達するケースが増加し、サプライチェーン上での重要性が高まっている。
- 投資家視点の変化:パワー半導体は「独立した投資テーマ」として認識され、アナログICとは異なる評価基準で分析される。
特に自動車・産業分野では、ロジック半導体よりもパワー半導体が新たな価値源泉となっている点が大きな特徴です。EVの普及や再生可能エネルギーの拡大に伴い、電力変換効率や高耐圧・高信頼性の技術が競争力の中心となっています。
パワー半導体 2030 市場とシェア予測
市場規模(Power discretes / Modules / SiC / GaN を含む)
- 2024年度:32〜38 B$
- 2030年度(予想):60〜80 B$
主要プレーヤー
- Infineon
- onsemi
- STMicroelectronics
- Mitsubishi Electric / Fuji Electric / Toshiba
- ROHM
- Wolfspeed
- Vishay
- Nexperia
- BYD / Silan など中国勢
2030年の予測シェアレンジ(一般的に語られる目安)
| 企業 | 2030シェア予測 |
| Infineon | 12–17% |
| onsemi | 7–11% |
| STMicro | 7–11% |
| Mitsubishi / Fuji / Toshiba(合算) | 12–18% |
| ROHM | 3–6% |
| Wolfspeed | 3–5%(SiC特化) |
| 中国勢(BYD / Silan / others) | 10–15% |
- SiC/GaNの普及により、ST、onsemi、Wolfspeed、ROHMなどの存在感が相対的に高まる構造。特にEV用インバータや急速充電器での採用が加速。
- 欧州勢(Infineon、ST、Mitsubishi/Fuji/Toshiba)は、車載・産業分野で強みを持ち、安定的なシェアを維持。
- 中国勢はBYDやSilanを中心に、国内EV市場の拡大を背景にシェアを伸ばす可能性が高い。
- WolfspeedはSiCウェハ供給に特化しており、材料面での競争優位を確立。
- ROHMは車載向けSiCモジュールで存在感を強め、トヨタ系サプライチェーンでの採用が拡大。
センサ & アクチュエータ の市場とポジション
センサ & アクチュエータ(MEMS、各種センサ、アクチュエータ)は、従来は半導体市場の中で脇役的な存在と見られてきました。
しかし近年は、EV、ADAS(先進運転支援システム)、ロボティクス、産業IoTといった複数の成長ドライバーが同時に立ち上がっており、分野全体の存在感が急速に高まっています。
代表的なセンサ群
- MEMSジャイロ・加速度センサ:車載安全機能、スマートフォン、産業機器で広く採用。
- 圧力・温度・磁気センサ:EVのバッテリ管理、産業制御、環境モニタリングに不可欠。
- イメージセンサ(車載/産業用途):ADASや監視システム、工場自動化で需要拡大。
- ToF(Time of Flight)、LiDAR:自動運転やロボティクスでの空間認識技術の中核。
- バイオ/環境センサ:ヘルスケア、ウェアラブル、スマートシティでの利用が拡大。
成長の特徴
- センサ & アクチュエータは、ロジックやメモリとは異なる独自の成長曲線を持ち、用途の多様化が市場拡大を支えています。
- 2030年にかけて年率7〜10%程度の成長レンジが一般的な見通しとされ、半導体市場全体の平均成長率を上回る可能性があります。
- 特にEV・ADAS分野では安全性・制御性の向上に不可欠であり、センサの搭載数が増加することで市場規模が拡大。
- 産業IoTやスマートファクトリーでは、センサとエッジAIの組み合わせによるリアルタイム分析が新たな付加価値を生み出しています。
- バイオ・環境分野では、健康管理や環境モニタリングの社会的ニーズが高まり、次世代の成長テーマとして注目されています。
2030年に向けた構造変化

- EV × 電力インフラ が市場構造を変える
→ EVの普及、急速充電器、再生可能エネルギーの拡大により、パワー半導体と電力変換技術が中心テーマとなる。特にSiCやGaNの普及が市場拡大を牽引。 - AI × HPC がロジックとメモリ市場を牽引
→ 生成AIやクラウドサービスの拡大に伴い、HBM、2nm世代プロセス、3D積層、チップレットへの投資が続く。AI専用アクセラレータやGPUの需要が爆発的に増加し、ロジック・メモリ双方の成長を支える。 - 産業 × 自動化 がマイクロ・アナログ・センシングを押し上げる
→ IoT、FA(ファクトリーオートメーション)、ロボット、スマートファクトリーの進展により、MCU、アナログIC、センサの需要が拡大。エッジAIとの融合で新たな付加価値が生まれる。 - 政策・社会・技術
- 地政学・政策要因:米国のCHIPS法、欧州の半導体戦略、中国の国家主導投資が市場構造を左右。
- 環境・社会要因:脱炭素・省エネの潮流がパワー半導体とセンサ市場を後押し。
- 技術横断テーマ:先進後工程(CoWoS、Foverosなど)、3D積層、チップレットはロジック・メモリだけでなく、センサやアナログにも波及効果を持つ。
次の10年の半導体市場は、「AI」と「電動化」という2軸で捉えるのが最もシンプルかつ合理的です。
AIが演算性能とメモリ需要を牽引し、電動化がパワー半導体と電力インフラを拡大させる。この二大潮流に産業自動化やIoTが加わることで、半導体産業は従来の「微細化一辺倒」から、用途主導の多軸成長構造へと移行していきます。
まとめ
本ブログで整理したように、2030年に向けた半導体市場は「AIによる演算性能需要」と「電動化による電力変換需要」という二大潮流を軸に、多軸的な成長構造へと移行しています。
従来の微細化一辺倒ではなく、用途主導の市場拡大が鮮明になっている点が重要です。
今は、半導体産業が「微細化競争」から「用途主導の多軸成長」へと本格的に転換が進んでいます。 技術・市場・政策の三位一体で戦略を再構築することが、持続的な競争優位を確立する鍵となるかもしれません。


