はじめに
NVIDIAは新世代プラットフォーム「Vera Rubin」を、AMDは「Helios」を市場へ投入し、次の時代のAIインフラをめぐる競争が本格化し始めました。
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数年前までのAI半導体の評価軸は、GPU単体の性能やFLOPS、学習速度といった“チップ単体の能力”が中心でした。
しかし現在は、評価軸そのものが大きく変わりつつあります。
生成AIの普及によって、AIモデルを「学習させること」よりも、日々のサービスで大量に使われる「推論」の重要性が急速に高まっているためです。
さらにAIデータセンターの規模が拡大し、評価の単位もGPU単体ではなく、
- ラック全体
- クラスタ全体
- データセンター全体
へと移りつつあります。
NVIDIAは、RubinでGPUだけでなくCPU・ネットワーク・光通信技術まで含めた“統合型AIインフラ”を提案しています。
一方AMDはHeliosを、GPU・CPU・ネットワーク・ソフトウェアを組み合わせた“オープンなラックスケール基盤”として位置付けています。
両社が競っているのは、「どちらのGPUが速いか」ではありません。
2030年のAIデータセンターの姿を、どちらが定義するのか。
その主導権をめぐる競争なのです。
本コラムでは、Vera RubinとHeliosの技術的な違いを整理しながら、2030年、そして2035年に向けてAIインフラがどのように進化していくのかを考察していきます。
1.NVIDIA Vera RubinとAMD Heliosは何を目指しているのか
現在のAI半導体市場では、NVIDIAとAMDの競争が最も注目されています。
しかし両社は、AIインフラの未来像について異なるアプローチを取っています。

1-1.NVIDIAが目指す世界
Rubinは、従来のような「GPU単体の製品」ではありません。
NVIDIAは次の要素を最初から一体として設計しています。
- Vera CPU
- Rubin GPU
- NVLink 6
- BlueField DPU
- ConnectX SuperNIC
- Spectrum-X Ethernet
これらを組み合わせることで、NVIDIAは「AIコンピュータ全体」を提供する戦略を取っています。
つまり、GPUという部品を売るのではなく、AIを動かすための“完成された設備”を提供しようとしているのです。
さらにNVIDIAは、AIデータセンターを「AI Factory(AI工場)」と呼び始めています。
AIモデルがテキスト・画像・動画・コードなどを大量に“生成”するため、データセンターを生産設備として捉える発想です。
1-2.AMDが目指す世界
AMDは、HeliosをラックスケールのAI基盤として設計しています。
構成要素は、
- MI455X(GPU)
- EPYC Venice(CPU)
- Pensando NIC
- UALink
- ROCm(ソフトウェア)
などです。
AMDの特徴は 「オープン性」 にあります。
AMDは、
- UALink
- Ultra Ethernet
- Open Rack
といったオープン規格を積極的に採用しています。
これは、「NVIDIAだけに依存しないAIインフラを作る」という明確な戦略です。
クラウド事業者にとって特定企業への依存はリスクであり、AMDの“選択肢を増やす”アプローチは戦略的価値が大きいと言えます。
1-3.勝敗より重要な変化
興味深いのは、両社ともGPU単体を売ろうとしていない点です。
- AMD Heliosは72基のGPUを前提としたラック構成
- NVIDIA RubinもNVL72という72GPUシステムを中心に展開
つまり競争の単位が、「GPU」 → 「サーバー」 → 「ラック」 へと移りつつあります。
今後は「どのGPUが速いか」ではなく、「どのラックシステムが優れているか」が評価の中心になる可能性があります。
2.2030年、AIデータセンターはどう変わるのか

Vera RubinとHeliosの競争を見ると、多くの人はGPU性能に注目しがちです。
しかし本当に重要なのは、その先にある「AIデータセンター全体の姿」です。
両社は、2030年のAIインフラの設計図そのものを示しています。
すでに2026年時点で、NVIDIAもAMDもGPU単体ではなく 72基のGPUを1つのシステムとして扱う設計 を採用しています。
AMD Heliosは72基のMI455Xを統合したラック構成、NVIDIA RubinもNVL72という72GPUシステムを中心に展開しています。
これは、AIインフラがこれから大きく変わることを示しています。
2-1.AIサーバーからAIファクトリーへ
従来のデータセンターは、
- Webサーバー
- データベース
- ストレージ
を収納する場所でした。
しかし生成AI時代のデータセンターは、「巨大なAIモデルを常時稼働させ、大量の推論を行い、テキスト・画像・動画・コードなどの成果物を継続的に生成する場所へと変わります。
NVIDIAがAIデータセンターを「AI Factory(AI工場)」と呼び始めたのは、この変化を象徴しています。
2030年には「データセンター」という言葉よりも、「AIファクトリー」という呼び方が一般的になっているかもしれません。
2-2.競争単位はGPUからラックへ
かつては、
- CPU性能競争
- GPU性能競争
という流れでした。
しかし2030年には、競争の単位が ラック全体 へと移ります。
AIの性能を決めるのはGPUだけではなく、
- GPU
- CPU
- メモリー
- ネットワーク
- 冷却
- 電源
が一体として機能することが重要になるためです。
AMD自身もHeliosを「ラックスケールAIインフラ」と位置付けています。
今後は『GPUの速さ』ではなく、『ラックシステム全体の完成度』が評価の中心へと移る可能性があります。
2-3.ハイパースケーラーの発想も変わる
現在のクラウド事業者(AWS、Microsoft、Google、Oracle、Metaなど)は、すでにGPUを数万個単位で導入しています。
しかし2030年には、数十万GPU規模が標準 になる可能性があります。
AMDはHeliosを前提に、複数のAIファクトリー計画を進めており、インドでは200MW級のAIインフラ計画も発表されています。
重要なのは、「何台GPUを買うか」ではなく、 「何GWのAI能力を構築するか」 という発想へ変わることです。
2-4.AIデータセンターは巨大発電所に近づく
2030年に向けて最も大きな変化は 電力 です。
現在でも大型AIデータセンターは数百MW規模ですが、将来的にはGW級施設が増えると予想されています。
最新の研究では、AIシステムの高密度化により、2027年頃には ラック当たり1MW級 に近づく可能性が指摘されています。
これは従来のデータセンターの常識を大きく超え、AIデータセンターは「巨大なコンピュータ施設」ではなく、「巨大な電力消費施設」へと変わっていきます。
2-5.液冷が標準設備になる
もう一つの大きな変化は 冷却方式 です。
Heliosは完全液冷設計を採用しており、実機レポートでもラック全体が液冷前提で構成されていることが報告されています。
NVIDIAも同じ方向性を示しています。
2030年頃には、空冷サーバールームは一般企業向け設備となり、最先端AIデータセンターでは液冷が標準になる可能性があります。
かつてUPS(無停電電源装置)が必須設備になったように、将来は CDU(冷却分配装置) が標準設備になるでしょう。
2-6.光通信の時代が始まる

2030年を考える上で特に重要なのが 通信技術 です。
AIシステムの規模が、「72GPU」 →「720GPU」 →「7,200GPU」 → 「72,000GPU」と拡大すると、演算よりも通信の方が難しくなります。
そのため、
- NVLink
- UALink
- Ultra Ethernet
- シリコンフォトニクス
の重要性が急上昇します。
2030年のAIデータセンターは、GPU工場であると同時に、巨大な光通信ネットワークでもあるのです。

3.2035年のAIインフラはどこまで進化するのか
2030年のAIデータセンターが「AIファクトリー」になるとすれば、2035年はそのさらに先の世界です。
その未来像の一部が、すでにVera RubinとHeliosの設計思想に表れ始めていることです。
現在は、
- GPU性能
- HBM容量
- 消費電力
といったチップ単体の話題に集中しがちです。
しかし2035年を考えるなら、GPUそのものよりも AIインフラ全体の設計思想 に目を向ける必要があります。

3-1.AIファクトリーは国家インフラになる
従来、国家インフラといえば、
- 電力網
- 高速道路
- 港湾
- 空港
などが中心でした。
しかし2035年には、AIインフラそのものが国家競争力の源泉になる可能性があります。
日本では2026年、経済産業省の支援のもと、NVIDIA Rubinを活用した国家規模AIインフラ計画が始動しました。
この計画では、
- 13,750基のVera CPU
- 27,500基のRubin GPU
- 140MW級データセンター
が構築される予定です。
これはもはや従来のデータセンターではなく、国家レベルの“AI生産インフラ”と言えます。
2035年には、「AIを持つ企業」ではなく、「AIインフラを持つ国家」という考え方が一般化しているかもしれません。
3-2.AIの主戦場はクラウドからフィジカルAIへ
2023〜2026年のAIブームは、クラウド上の生成AIが中心でした。
しかし2035年は、AIが物理世界へ本格的に進出します。
具体的には、
- ヒューマノイド
- 自動運転
- 自律物流
- 工場自動化
- 医療ロボット
などです。
日本のFRONTiaプロジェクトも、ロボティクスやフィジカルAIを主要目的として掲げています。
つまり2035年のAIインフラは、チャットボットを動かすためではなく、現実世界を動かすために存在する ようになります。
3-3.100万GPU時代は本当に来るのか
数年前なら「100万GPU」という数字は非現実的に思えたかもしれません。
しかし現在のNVIDIAは、明確に “Million GPU AI Factory” を掲げています。
Vera Rubinでは、Spectrum-X Ethernet PhotonicsとCPO(Co-Packaged Optics)を組み合わせ、100万GPU規模のAIファクトリー実現を目標としています。
3-4.何が重要になるのか(GPUよりも“周辺技術”)

100万GPU規模では、重要になるのは次の要素です。
- 通信
- 電力
- 冷却
- ソフトウェア
- 運用自動化
GPUは、巨大なAIインフラを構成する多数の要素の一つへと位置づけが変わります。
現在のデータセンターがCPUの型番で語られないのと同じように、2035年にはGPU型番よりも AIファクトリー全体の能力 が評価されるようになるでしょう。
3-5.通信が演算を超える時代
2035年に向けて最も大きく変化するのは 通信技術 です。
AI業界はこれまで演算性能を中心に発展してきました。
しかし100万GPU時代では、GPU同士をどう接続するかの方が重要になります。
そのため、
- NVLink
- UALink
- Ultra Ethernet
- シリコンフォトニクス
- CPO(Co-Packaged Optics)
への投資が急増しています。
米国政府は2026年、AI向けシリコンフォトニクス開発に対しGlobalFoundriesへ追加支援を行いました。
これは単なる半導体政策ではなく、次世代AIインフラ競争への投資 です。
3-6.2035年の競争軸は「知能/ワット」になる
これまでのAI業界は、より大きなモデルを作る競争でした。
しかし近年の研究ロードマップでは、今後10年間の目標として「計算量を増やすこと」ではなく “効率を1000倍向上させること” が重視されています。
つまり2035年の競争は、GPU性能競争ではなく、 どれだけ効率よく知能を生み出せるか という競争になります。
●2035年の評価指標(予想)
- 2025年:FLOPS
- 2030年:AIファクトリー能力
- 2035年:知能生成量/推論効率/エネルギー効率
半導体業界にとっても大きな変化です。 トランジスタ数ではなく、社会に提供できる知能量が価値になる時代 へ移行します。
4.2035年に向けてNVIDIAとAMDはどこへ向かうのか
ここまで見てきたように、Vera RubinとHeliosの競争は単なるGPUシェア争いではありません。
両社が目指しているのは、「次世代AIインフラの標準を握ること」です。
2035年のAI社会では、半導体メーカーの価値は「高性能なチップを作れるか」だけでは決まりません。 重要になるのは、
- どれだけ大規模なAIシステムを構築できるか
- どれだけ効率的に運用できるか
- 世界中の企業が利用できる環境を提供できるか
という、より広い視点です。
その意味で、NVIDIAとAMDは異なる戦略で未来を競っています。

4-1.NVIDIAの未来(AIインフラ全体を支配する“垂直統合モデル”)
NVIDIAの最大の強みはGPUそのものではありません。
本当の強みは、次の要素を一体化できる点にあります。
- GPU
- CPU
- ネットワーク
- 通信技術
- ソフトウェア
- 開発環境
現在のAI市場では、CUDAというソフトウェア基盤が非常に大きな競争力になっています。
多くのAI研究者や企業は、
- PyTorch
- TensorFlow
- AI開発ツール
をCUDA環境で利用しています。
そのため企業がNVIDIA製GPUを選ぶ理由は、「性能が高いから」だけではありません。
既存の開発資産をそのまま使える という安心感が大きいのです。
●2035年のNVIDIAは「AIシステム企業」になる可能性
現在は「NVIDIA=GPUメーカー」という認識が一般的です。
しかし2035年には、NVIDIAは「AIインフラ企業」へと進化している可能性があります。
AIデータセンターを建設する際に必要なのは、
- AI計算装置
- ネットワーク
- 冷却設計
- ソフトウェア
- 運用管理
といった幅広い要素です。
これらを一体で提供できる企業は、もはや半導体メーカーではなく、“AIファクトリーの設計・運用を担う企業”へと進化します。
4-2.AMDの未来(オープンなAIエコシステムを狙う)
AMDは、NVIDIAとは異なる道を進んでいます。
AMDの戦略は、「NVIDIAとは別の選択肢を作る」ことです。
その中心となるのが、
- Instinct GPU
- EPYC CPU
- ROCm
- UALink
- オープンネットワーク技術
です。
●AMDの最大の強みは“柔軟性”
巨大クラウド事業者にとって、一社への依存はリスクになります。
もし世界中のAIインフラが一社だけに依存すると、
- 価格
- 供給量
- 技術ロードマップ
の影響を強く受けてしまいます。
そのためMicrosoft、Meta、Google、Amazonなどの大規模ユーザーは、複数の選択肢を求めています。
AMDはそこに大きな市場機会を持っています。
4-3.2035年、勝者は1社ではない可能性
半導体業界では「最終的に1社が独占する」という予測がよくあります。
しかしAIインフラでは、AI用途が非常に多様だなために異なる可能性があります。
例えば、
- 大規模AI学習 → NVIDIAが強い
- 巨大クラウド推論 → AMDのコスト優位性が活きる可能性
- エッジAI → 専用AIチップ
- ロボット → リアルタイム推論チップ
というように、用途によって最適な半導体が変わります。
4-4.第三極は登場するのか
2035年を考える上で重要なのが、「NVIDIAとAMD以外の存在」です。
現在でも、
- Google TPU
- AWS Trainium
- Cerebras
- Groq
- Graphcore
など、独自AI半導体を開発する企業が存在します。
●専用AIチップが伸びる理由
GPUは柔軟性が高い一方、すべてのAI処理に最適とは限りません。
大量の推論処理だけを行う場合は、専用設計チップの方が、
- 消費電力
- コスト
- 応答速度
で有利になる可能性があります。
2035年には、「GPU」 → 「AIアクセラレータ」 → 「用途別AIチップ」 という多様化が進む可能性があります。
4-5.2035年、本当の競争相手は“別の技術”になる
NVIDIAとAMDの競争だけを見ていると、未来を見誤る可能性があります。
2035年のAIインフラでは、半導体以外の技術が大きな差になります。
① 光電融合
現在の電気配線では、AIシステムの巨大化に限界があります。
そのため、
- 光通信
- シリコンフォトニクス
- CPO
が重要になります。
② 新しいメモリー技術
HBM4の次には、
- HBM5
- 3D積層メモリー
- CXL
- メモリー・コンピューティング
などが登場します。
③ AI専用エネルギーインフラ
2035年には、AIデータセンター専用の
- 発電設備
- 蓄電設備
- 電力制御システム
が必要になる可能性があります。
4-6.AI競争の焦点は“半導体”から“インフラ”へ

Vera RubinとHeliosが示しているのは、「どちらのGPUが勝つか」という話ではありません。
AI時代のコンピューターとは何か をめぐる競争です。
- 2026年:GPU性能を競う時代
- 2030年:AIファクトリーを競う時代
- 2035年:知能インフラを競う時代
この流れの中で、
- NVIDIAは「統合型AIインフラ」
- AMDは「オープン型AIインフラ」
という異なる未来を描いています。
どちらが最終的な勝者になるかはまだ分かりません。
しかし確実に言えるのは、AI半導体の競争は半導体業界だけの競争ではなく、電力・通信・冷却・材料・製造装置を含む巨大な産業競争へと広がっている ということです。
おわりに
AI半導体の競争は、もはや「どのGPUが速いか」という勝負ではありません。
Vera RubinとHeliosの登場が示しているのは、AI社会の基盤そのものが大きく変わり始めているという事実です。
本当の変化は、GPUの性能ではなく、その先にある、
- 巨大AIデータセンター
- 光通信ネットワーク
- 新しい電力インフラ
- 自律型ロボット社会
といった、社会全体を支える“知能基盤”の姿にあります。
2035年、AIを制する企業や国家は、最も高速なGPUを持つ者ではないでしょう。
最も効率的に“知能”を生産できるインフラを構築した者こそが、次の時代の主役になります。
AI半導体の競争は、半導体業界だけの競争ではありません。
電力、通信、冷却、材料、製造装置─あらゆる産業が交差する構造変化の中で、AIインフラの覇権が決まっていきます。
Vera RubinとHeliosは、その巨大な変革へ向かう“入口”にすぎません。
これからの10年は、AIが社会の根幹を形づくる時代へと進んでいくことでしょう。


