製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するための一つのツールである3D‐CADは、1990年代ごろから一般企業へも普及始め35年が経ちます。
しかし、製造業において十分に普及しているとは感じないのが現実ではないでしょうか。
その理由と解決策を解説します。
3D-CADの普及状況は?

「3D-CADはもう当たり前の時代」と思われがちですが、実際には業界や企業規模によって普及の状況には、大きな差があります。
大企業では3D-CADが標準化
- 自動車、航空、精密機器などの業界では3D-CADの導入が一般的となっています。
- 設計からシミュレーション、製造まで一貫して3Dデータを活用されています。
- とはいえ、2D図面を補助的に使うケースが増加しているようです。(なぜだろうか?)
中小企業では2D-CADが根強い
- 製造現場では「まだまだ2Dで十分」という意識が根強くあります。
- 3D-CADの導入コストや教育負担が経済的に対応が不可能。
- 顧客や取引先が2Dデータを求めるケースがまだまだ多い。
3D-CADは普及をしている方向ですが、「中小企業ではハードルが高い」と感じる企業が多くあります。
なぜ3D-CADが普及しないのか? 5つの理由

初期導入コストと維持費が高い
- 3D-CADのソフトウェアは高価で、ライセンス費用も継続的にかかる。
<主なソフト名・メーカー 3社>
以下は参考情報として最新情報は公式サイトで確認をしてください。
ランク | ソフト名 | メーカー | 主な導入業界 | 価格帯 (目安) |
---|---|---|---|---|
1 | SOLIDWORKS | Dassault Systèmes | 中小企業~大企業(機械設計・製造) | 60万~150万円+保守費用 |
2 | CATIA | Dassault Systèmes | 自動車・航空・精密機器 | 150万円~数百万円 |
3 | Autodesk Inventor | Autodesk | 中小企業(製造装置・部品設計) | 40万円~/年 |
- ハイスペックPCやデータ管理システムの導入が必要となる。
習熟に時間がかかる(教育負担)
- 2D-CADに慣れた技術者が3Dへ移行するには教育コストがかかる。
<一般的な教育期間>
学習内容 | 2D-CAD | 3D-CAD |
---|
基礎習得 | 8~16時間(1~2日) | 16~40時間(2~5日) |
実務レベル | 2週間~1か月(40~100時間) | 1~3か月(100~300時間) |
応用スキル | 1~3か月(100~300時間) | 6か月~1年(300時間以上) |
業務フローが2D図面ベースで最適化されている
- 3Dデータを作っても、そのまま加工データで使えず(現場設備の都合)、最終的に2D図面を出図することが多い。
- 社内の承認フローや取引先とのやり取りが従来通りのままであるため2D主体となっている。
現場との連携が不十分
- 加工現場は、NC加工機などの従来設備のため、3Dデータを2D(図面)に出図したものが必要となる。
3DーCADの共有化問題
- 3D-CADの機種が異なると互換性がなく、設計ファイルを開くことができずに共有ができない。
- 異なるメーカーの3D-CADでファイル共有のため、変換用の中間ファイルに変換することで共有可能となるが、この場合に必要な設計情報の欠落が起きるために十分か活用ができない。
<主な問題>
問題 | 内容 |
フィーチャー情報の欠落 | 3Dモデルの「押し出し」「フィレット」「パターン」などのフィーチャー情報の削除 |
面やエッジのズレ・ジオメトリの破損 | 面と面の接合部分に隙間(ギャップ)ができる |
アセンブリ構造が失われる | 部品構造(アセンブリ情報)が壊れ、位置関係が崩れる |
パラメトリック情報の消失 | 形状を構築するためのパラメータ(寸法、拘束条件)が消失 |
- 注文元の3D-CADメーカー指定があり、対応ができないために2Dでの運用となっている
3D-CAD普及を進めるための解決策

低コストで導入できるクラウド型3D-CADを活用
- 「Fusion 360」や「Onshape」などのクラウド型3D-CADなら、比較的低コストで導入可能。
- PCのスペックが低くてもクラウド上で処理できる。
<主なクラウド型3D-CAD>
以下は参考情報として最新情報は公式サイトで確認をしてください。
ソフト名 | メーカー名 | 基本料金(参考) | 特徴 |
---|---|---|---|
Fusion 360 | Autodesk(オートデスク) | 7,700円/月 or 64,900円/年 | 機械設計・製造・シミュレーション・CAM統合 |
Onshape | PTC(旧:独立企業) | 約200ドル/月(約3万円/月) | 完全クラウド型、チーム設計向け、デバイス間連携 |
Shapr3D | Shapr3D(ハンガリー) | 約25ドル/月(約3,800円/月) | タブレット・PC向け、直感的モデリング |
TinkerCAD | Autodesk(オートデスク) | 無料 | 初心者向け、ブラウザベースの簡易3D設計 |
VECTARY | Vectary(スロバキア) | 約12ドル/月(約1,800円/月)~ | Webブラウザで使える3Dデザインツール |
2D/3Dのハイブリッド運用を採用
- いきなり3D-CADに完全移行するのではなく、「2D図面も活用しながら徐々に3Dへ移行」する方法を検討。
- AutoCAD MechanicalやBricsCADなど、2Dと3Dを併用できるソフトを使う。
AI・自動化機能を活用
- Siemens NXなど、AIを活用した設計支援ツールを使えば、初心者でも効率よくモデリング可能となります。
- ジェネレーティブデザイン1で自動設計の活用も進めてみる。
社内の3D-CAD教育を強化
- CADメーカーが提供する無料トレーニングやオンライン講座を活用する。
- ベテラン技術者向けの「2D→3D移行研修」を実施する。
クラウドPDMでデータ管理を効率化
- クラウド型の製品データ管理(PDM)システムを導入。
- 例:SOLIDWORKS PDM、Autodesk Vaultを活用し、データの一元管理を実施。
まとめ:中小企業を含めた3D-CAD活用環境を考えるべき

3D-CADの普及は進んでいるものの、中小企業では「コスト」「習熟度」「業務フロー」の問題がネックとなり、完全移行が難しい状況はかわらないと思います。
しかし、今後の製造業において、3Dデータの活用は避けられない流れですが、製造現場(加工現場)では、2D(図面)が必要なことは続くでしょう。
近年では、AI技術を活用した図面検索ツールが多機能を設けて提供されていますから、生産性向上の一つになるでしょう。
- AI(人工知能)を活用して、設計目標や制約条件を元に、最適なデザインを自動的に生成する設計手法です。従来の設計方法とは異なり、設計者は単に最終的な結果を指定するのではなく、設計目標や制約を設定し、AIがそれに基づいて無数の設計案を生成します。 ↩︎