はじめに
生成AIの普及によって、多くの人はAIを「ソフトウェアの進化」と捉えがちです。
しかし本連載で述べてきたように、AIの本質はソフトウェアにとどまらず、国家インフラ全体を巻き込む大きな変化です。
第1〜4回では、AI競争が電力・半導体・材料・地政学などへ広がっている現実を見てきました。 そして今回取り上げるのが、もう一つの重要インフラである 通信 です。
AIの性能向上に伴い、扱うデータ量は急増しています。
巨大データセンター同士を結び、世界中の利用者へサービスを届けるには、膨大な情報を高速かつ安定して運ぶ通信網が不可欠です。
私たちは普段意識しませんが、国際通信の大半は衛星ではなく 海底ケーブル によって支えられています。
クラウド、金融、動画配信、そしてAIサービスのほぼすべてが、この光ファイバー網の上で成り立っています。
近年は米中対立の影響もあり、海底ケーブルは国家安全保障上の戦略インフラとして扱われるようになりました。
どの国が敷設し、どのルートを通り、どの企業が運営するのか、これらは国家戦略そのものです。
さらにAI時代では、データセンター内部の通信量も急増し、光通信技術そのものが転換点を迎えています。
半導体と通信を融合する 光電融合 や CPO といった技術は、次世代AIインフラの中核として注目されています。
AI時代において、電力が文明のエネルギー源だとすれば、通信は文明の血流です。 その血流を支える海底ケーブルを巡り、すでに国家間競争が激化しています。
AIの性能はGPUだけでは決まりません。 巨大データセンターを結ぶ通信網を誰が整備し、誰が支配するのか、その争いが始まっています。
今回は、世界で進行する「見えない通信インフラ戦争」を通じて、AI時代の新たな国家競争を考えていきます。
【連載コラム予定(全6回)】
第1回:AI覇権は“GPU性能”では決まらない
第2回:なぜAIは原発へ向かうのか
第3回:世界が争奪する半導体材料
第4回:台湾有事でAIは停止するのか
第5回:海底ケーブルがAI覇権を左右する(本稿)
第6回:2035年、「AI国家」の条件
1.AIは巨大データを移動させる
11.なぜ通信がAI競争の主戦場になるのか
AIブームというと、多くの人はGPUや半導体の性能向上に注目します。
確かに計算能力はAIの進化を支える基盤です。
しかし2026年現在、業界で急速に重要性が高まっているのは 「通信能力」 です。
理由は、AIは膨大なデータを移動させる産業だからです。
初期の生成AIでは学習性能が注目されていましたが、現在は世界中の利用者が日々行う「推論」が通信量を押し上げています。
利用者が質問を送るたびに、データセンターでは大量の計算とデータ転送が発生します。
その結果、AI産業は「計算の競争」から「計算と通信の競争」へと移行しつつあります。
1‐2.AIは一台のコンピューターでは動かない
現在の最先端AIは、一台のサーバーで動作しているわけではありません。
大規模言語モデル(LLM)の学習では、数千〜数万個のGPUが連携し、巨大なモデルを分散して処理します。
このとき鍵となるのが GPU同士の通信 です。
GPUの性能が向上しても、通信速度が追いつかなければ全体の処理速度は頭打ちになります。
高速道路に例えると分かりやすいでしょう。
どれだけ高性能な車を増やしても、道路が渋滞していれば目的地には早く着けません。
AIも同じで、通信がボトルネックになれば性能は伸びません。
そのため現在のAI開発では、
- GPU
- HBM(高帯域メモリー)
- ネットワーク
- 光通信
を一体として最適化する流れが加速しています。
AI競争は半導体単体ではなく、通信システム全体の競争 へと変化しているのです。
1‐3.AIクラウドの拡大が通信需要を押し上げる
通信需要を押し上げているのは学習だけではありません。
世界各地で建設が進む巨大AIデータセンターも大きな要因です。
米国を中心に、数十万GPU規模の超大型データセンターが計画されています。
これらは単独で動くのではなく、複数拠点が相互接続されて巨大なクラウドネットワークを形成します。
例えば日本の利用者がAIサービスを使う場合、
日本国内ネットワーク→ 国際海底ケーブル→ 海外データセンター→ AIサーバー→ 結果返送
という流れで通信が行われます。 つまり生成AIを利用するたびに、国際通信インフラが稼働しているのです。
1‐4.AI時代は「データ移動量」が爆発する
2030年以降は、AIエージェント、自動運転、ロボット、スマート工場などの普及によって、通信量は現在とは比較にならない水準へ増加すると予想されています。
AIは文章生成だけでなく、映像・音声・センサー情報・位置情報など、多様なデータをリアルタイムで処理します。
自動運転車1台だけでも膨大なセンサーデータを生成し、それが数百万台規模で接続されれば通信量は爆発的に増えます。
工場、物流、医療、エネルギー管理なども同様です。
AI社会とは、データが絶えず流れ続ける社会 であり、その流れを支える通信網が国家競争力を左右する時代が近づいています。

1-5.通信は新たな国家インフラになった
かつて国家の成長を支えたのは道路や港湾、発電所でした。 現在も重要ですが、AI時代にはそれに加えて 通信網 が国家インフラの中心的存在になりつつあります。
どれだけ優れたAIを開発しても、
- 通信網が脆弱
- 国際接続が少ない
- データ転送速度が遅い
といった状況では、AI産業全体の競争力は低下します。
AI国家の条件として、
- 電力
- 半導体
- 資源
- 通信
が並び立つ時代になったのです。
そして世界の通信を支える最重要インフラこそが、次章で解説する 海底ケーブル です。
2.海底ケーブルとは何か
2-1.世界経済を支える見えない大動脈

私たちは日常的にインターネットを使い、動画を見たり、SNSに投稿したり、クラウドサービスや生成AIを利用しています。
しかし、そのデータが実際にどのルートを通って世界中を移動しているのかを意識することはほとんどありません。
「国際通信は衛星が担っている」と考える人も少なくありませんが、現実はまったく逆です。
世界の国際通信の大部分は、海底に敷設された光ファイバーケーブルによって支えられています。
海底ケーブルは大陸と大陸、国と国を結び、世界中のデータを高速に運ぶ“見えない大動脈”です。
インターネット、金融取引、クラウド、動画配信、そしてAIサービスのほぼすべてが、この海底ケーブル網の上で成り立っています。
2-2.なぜ衛星通信が主役ではないのか
国際通信と聞くと人工衛星を思い浮かべがちですが、大容量通信という観点では海底ケーブルが圧倒的に優位です。
理由は単純で、光ファイバーの通信容量が桁違いに大きい からです。
現在の海底ケーブルは複数対の光ファイバーを内蔵し、一本で数百Tbps級の通信能力を持つものも登場しています。
一方、衛星通信は利便性こそ高いものの、容量・遅延・コストの面で制約が大きく、AIや動画配信のような超大容量通信の主役にはなれません。
つまり、私たちが日常的に利用するAIサービスも、実際には海底ケーブルを経由して海外の巨大データセンターとつながっているのです。
2-3.世界は海底ケーブルで結ばれている
現在、世界の海底には数百万キロメートル規模の光ファイバー網が張り巡らされています。
太平洋、大西洋、インド洋、地中海、北海など、主要海域には無数のケーブルが敷設されています。
特に重要なのは、
- 北米-欧州
- 北米-アジア
- アジア域内
- 欧州-中東
- 欧州-アフリカ
といった国際通信ルートです。
例えば日本から米国のAIクラウドへアクセスする場合、多くの通信は太平洋横断ケーブルを通ります。
日本国内だけで処理が完結するケースは限定的で、生成AIの学習・推論の多くは海外データセンターで行われています。
つまり、利用者が意識しなくても、AIサービスの背後では常に国際通信網が稼働しているのです。
2-4.通信は特定ルートへ集中している
海底ケーブルは世界中に張り巡られているものの、その構造は均等ではありません。
実際には通信量の多い地域へ集中しています。
特に米国は世界最大のデータセンター集積地であり、多くの国際通信が米国を経由します。
クラウド大手やAI企業の多くが米国に拠点を置くためです。
その結果、アジア →米国西海岸→ 米国内データセンター→ 欧州 という形でデータが流れるケースも珍しくありません。
この集中構造は効率的である一方、自然災害・事故・地政学的対立・サイバー攻撃などによるリスクも抱えています。
TSMC依存と同様、海底ケーブルもまた「集中リスク」を持つ重要インフラなのです。
2-5.AI時代に海底ケーブルの価値が急上昇している
海底ケーブルは以前から存在していましたが、AIの普及によってその重要性はかつてないほど高まっています。
理由は明確で、AIが扱うデータ量が急増している からです。
生成AIだけでなく、
- AIエージェント
- 自動運転
- スマート工場
- 遠隔医療
- デジタルツイン
- ロボティクス
などが普及すれば、世界の通信量は現在を大きく上回ります。
そしてその多くは国境を越えて移動します。
AI時代は「計算能力の競争」であると同時に、「データ移動能力の競争」でもあります。 海底ケーブルは単なる通信設備ではなく、AI文明を支える戦略インフラへと変化しつつあるのです。
2-6.AIデータセンターは海底ケーブルなしでは成立しない
近年建設が進むAIデータセンターは、単独で存在しているわけではありません。 米国、欧州、日本、中東などに分散した巨大データセンター同士が接続され、一つの巨大なAIインフラを形成しています。
その接続を支えているのが海底ケーブルです。 つまり海底ケーブルはインターネットのためだけの設備ではなく、AIデータセンターを結ぶ神経網 でもあります。
3.AI時代の通信戦争
3-1.データ主権と国家安全保障
海底ケーブルは長らく通信事業者のインフラとして扱われてきました。
しかしAIの普及によって、通信網そのものが国家戦略資産として再定義されつつあります。
AI時代では、データの価値が急速に高まり、
- 半導体
- AI
- クラウド
- 通信網
が国家競争力を左右する重要要素となりました。
世界の国際通信の95%以上は海底ケーブルが担っており、その障害は経済活動だけでなく国家機能にも直結します。
そのため各国政府は、海底ケーブルを単なる通信設備ではなく 安全保障インフラ として扱い始めています。
3-2.「データ主権」という新たな競争
近年注目される概念に データ主権(Data Sovereignty) があります。
これは「自国のデータを自国の法律・規制の下で管理する」という考え方です。
従来のインターネットは国境を意識しない仕組みとして発展してきましたが、AI時代には状況が変わります。 生成AIの性能は、
- データ量
- 計算資源
- 通信インフラ
によって大きく左右されるため、データは新たな国家資源になりつつあります。
欧州は個人情報保護を重視し、中国は国家主導のデータ管理を強化し、米国はAI・クラウドを国家競争力の源泉として位置付けています。
背景にあるのは、「データを誰が管理するのか」という主権の問題です。
AI競争とは、優れたAIを開発する競争であると同時に、 データをどこで保管し、どの通信網を通し、誰が管理するか という競争でもあります。
3-3.米中対立は海底ケーブルにも及んでいる
第4回で取り上げた米中半導体戦争と同じ構図が、通信分野でも進行しています。
米国は国家安全保障上の理由から、一部の海底ケーブル計画に対してルート変更や見直しを求めるなど、通信インフラへの関与を強めています。
中国企業が関与する通信網への警戒も高まっています。
背景にあるのは、 「通信を支配する者がデータを支配する」 という考え方です。
AI社会ではデータの流れそのものが経済活動です。 重要な通信ルートが特定国へ過度に依存すれば、政治的対立が経済へ直接影響を与える可能性があります。
これはTSMC依存構造と非常によく似ています。 半導体だけでなく通信インフラにも、地政学的リスクが存在しているのです。
3-4.海底ケーブルは新たな戦略目標になりつつある
海底ケーブルは高い信頼性を持つものの、絶対に安全ではありません。
実際には、
- 地震
- 海底地滑り
- 船舶の錨
- 漁業活動
などによる損傷が発生しています。
さらに近年は国家間対立の激化に伴い、海底インフラそのものへの懸念も高まっています。
欧州周辺や台湾周辺ではケーブル損傷が国際的な関心を集め、各国政府や軍事同盟は監視・保護体制の強化を進めています。
海底ケーブルは経済だけでなく政府通信や軍事通信も支えるため、安全保障上の重要性は極めて高いのです。
AI時代に通信依存度が高まるほど、海底ケーブルの保護は国家戦略の重要課題となります。
3-5.AIインフラ競争は「通信主権」の時代へ
かつて国家の競争力は領土・人口・工業力で決まりました。
その後、エネルギーや半導体が重要性を高め、AI時代には、
- 計算能力
- 電力
- データ
- 通信
が新たな競争軸となっています。
巨大データセンターだけではAIは成立しません。
それらを結び付ける高速通信網が不可欠です。
近年は巨大IT企業が海底ケーブルへの投資を拡大しており、AI需要の増加がその背景にあります。
通信インフラの支配力は、今後のAI競争力を左右する重要要素となりつつあります。
つまりAI競争とは、半導体競争だけでなく 通信インフラ競争 でもあるのです。
3-6.巨大IT企業も海底ケーブルへ投資している
かつて海底ケーブルは通信事業者が主導するインフラでした。
しかし現在では、クラウド事業を展開する巨大IT企業が積極的に投資するようになっています。
理由は明確で、 AIサービスの競争力はデータセンター同士を結ぶ通信能力で決まる からです。
AI覇権を巡る競争は、GPUだけでなく通信網の競争へも広がっています。
4.光通信革命
4-1.CPOと光電融合がAIを変える
海底ケーブルが世界中のデータを運ぶ“大動脈”だとすれば、データセンター内部の通信は“毛細血管”です。
そして今、AIの急速な進化によって、この毛細血管が限界に近づいています。
AIの性能向上を支えてきたのはGPUですが、2026年現在、業界で顕在化している最大の課題は 通信 です。
AIモデルが巨大化するほど、GPU同士が交換するデータ量は爆発的に増え、計算能力以上に通信能力が求められるようになっています。
そのため、GPU単体の性能だけでは競争力を維持できず、 GPU・メモリ・ネットワーク・光通信を一体最適化する時代 へと移行しています。
4-2.銅配線の限界が見え始めた
これまでデータセンター内部の通信は主に電気信号(銅配線)で行われてきました。
しかしAI時代になると、この方式は限界を迎えます。
通信速度を高めようとすると、
- 消費電力の増大
- 発熱の増加
- 信号劣化
- 通信距離の制約
といった問題が顕在化します。
特に数万GPU規模のAIデータセンターでは、通信のために消費される電力が無視できないレベルに達しています。
すでに「計算より通信の方が電力を食う」という状況すら現れています。
つまり、従来の銅配線中心のアーキテクチャでは、AIデータセンターの拡大に対応できなくなりつつあるのです。
4-3.光通信が主役になる時代
そこで注目されているのが 光通信 です。 光ファイバーを使うことで、
- 高速通信
- 長距離伝送
- 低損失
- 低消費電力
を同時に実現できます。
海底ケーブルが光ファイバーで構成されているのも同じ理由です。
そして今、その光通信技術をデータセンター内部へ持ち込む動きが加速しています。
従来はラック間や建物間で使われていた光技術が、GPUやスイッチのすぐ近くまで入り込もうとしているのです。
AIの進化が、「電気で通信する時代」から「光で通信する時代」 への転換を後押ししています。

4-4.CPO(Co-Packaged Optics)が注目される理由

その中心技術の一つが CPO(Co-Packaged Optics) です。
CPOとは、光通信モジュールをネットワークスイッチやAIチップの近くに一体実装する技術です。
従来は、チップ → 基板→ 電気配線→ 光モジュール という経路で信号を伝送していましたが、CPOでは光デバイスをチップのすぐ近くに配置します。
これにより電気信号が移動する距離が大幅に短縮され、
- 消費電力削減
- 発熱低減
- 通信帯域の拡大
- 高密度実装
が可能になります。
主要半導体メーカーやネットワーク機器メーカーはCPO開発を加速しており、AIデータセンター向けの次世代技術として位置付けられています。
4-5.光電融合が次世代AIインフラを支える

さらにその先にあるのが 光電融合 です。
これは、
- 計算は電子
- 通信は光
という役割分担を行う考え方です。
電子回路は計算処理に優れ、光は通信に優れています。
両者を組み合わせることで、AIシステム全体の効率を飛躍的に高めることができます。
現在、
- シリコンフォトニクス
- 光インターコネクト
- 光I/O
- CPO
などの技術開発が活発化しています。
NVIDIAやAMDも光通信関連技術への投資を強化しており、AIクラスタの大規模化に対応するための必須技術と見なされています。
4-6.レーザーが新たな戦略デバイスになる
光通信の中核部品は レーザー です。
光ファイバーを流れる光信号はレーザーによって生成されます。
つまり、海底ケーブル→データセンター→ CPO→ 光電融合、のすべてにレーザー技術が関わっています。
AIインフラ向け光通信市場では、
- シリコンフォトニクス
- InPレーザー
- 光トランシーバー
などへの投資が急拡大しています。
AIクラスタの大規模化に伴い、光通信部品の重要性は今後さらに高まると見られています。
4-7.AIの未来は「光」が支える
AIの進化を語ると、多くの人はGPUや半導体に注目します。
しかし今後のAIインフラでは、
- 計算性能
- 通信性能
- 電力効率
という順で課題が移っていく可能性があります。
その解決策として期待されているのが光通信です。
海底ケーブルによる国際通信網、 データセンター間の光ファイバー接続、 CPOによる高速ネットワーク、 光電融合による次世代コンピューティング。
これらはすべて一つの流れでつながっています。
AI文明を支える神経網は、これからますます「光」へ置き換わっていくでしょう。
5.日本の立ち位置
5-1.海底ケーブル・通信企業・光技術に勝機はあるのか
ここまで見てきたように、AI時代の競争は単なる半導体競争ではありません。
電力、半導体、通信、データセンター、そして国家安全保障を含む 総合インフラ競争 へと変化しています。
では、その中で日本はどのような立場にあるのでしょうか。
AI分野では米国の巨大IT企業が圧倒的な存在感を持ち、GPUではNVIDIA、クラウドでは米国勢が世界市場を支配しています。
そのため「日本はAI競争で出遅れている」という見方も少なくありません。
しかし、インフラという視点 で見れば状況は大きく異なります。
日本は世界トップクラスの光通信技術と海底ケーブル技術を持つ、数少ない国の一つなのです。
5-2.海底ケーブルで存在感を持つ日本
世界の海底ケーブル市場を見ると、日本企業は決して脇役ではありません。
特に NEC は長年にわたり海底ケーブルシステムの設計・製造・敷設を手がけ、世界有数のプレイヤーとして知られています。
海底ケーブルは単に光ファイバーを海に沈めれば完成するものではありません。
必要なのは、
- 海底地形の調査
- 最適ルートの設計
- 敷設船による施工
- 長期的な保守・修理体制
といった高度な技術と経験です。
NECはこれらを一貫して提供できる数少ない企業であり、アジア太平洋地域を中心に世界の主要ケーブルプロジェクトに深く関与しています。
日本は海底ケーブル分野で、依然として確かな存在感を持っているのです。
5-3.日本は光通信技術で世界をリードしてきた
日本は光通信技術でも長い歴史を持ちます。
光ファイバー、光デバイス、光増幅器などの基盤技術は、日本企業や研究機関が世界をリードしてきました。
特に、
- 光ファイバー(住友電工、フジクラ)
- 光デバイス(NTT、古河電工)
- 光増幅器(EDFA技術)
などは世界的に高い評価を受けています。
AI時代において光通信の重要性が急上昇している今、日本の技術基盤は大きな強みとなり得ます。
5-4.CPO・光電融合でも日本企業にチャンスがある
CPOや光電融合といった次世代技術でも、日本企業は重要なポジションを確保できる可能性があります。
理由は、
- 光デバイス製造の高い品質
- 材料技術の強さ
- 精密加工・パッケージング技術の蓄積
といった日本の得意分野が、光通信の核心部分と重なるためです。
AIデータセンター向け光通信市場は今後急拡大すると見られており、日本企業が再び存在感を発揮できる領域です。
5-5.日本の課題:巨大IT企業の不在
一方で、日本には明確な課題もあります。 それは 巨大クラウド企業が存在しない ことです。
米国のように、
- 自社でAIクラウドを運営し
- 自社で海底ケーブルを敷設し
- 自社でAIチップを開発する
といった垂直統合モデルを持つ企業が日本にはありません。
そのため、AIインフラ全体を主導する立場には立ちにくいという構造的な弱点があります。
しかし逆に言えば、日本は インフラ技術そのものに特化して強みを発揮できる という見方もできます。
5-6.日本が取るべき戦略とは何か
AI時代の通信インフラ競争において、日本が取るべき戦略は明確です。
- 海底ケーブル技術の強化
- 光通信・光デバイスの産業基盤維持
- CPO・光電融合など次世代技術への投資
- 国際通信ルートの多様化
- データセンター誘致と電力インフラ整備
これらは日本が世界のAIインフラにおいて存在感を維持するための重要な要素です。
AI時代の競争は、単にAIモデルを作る競争ではありません。
AIを支えるインフラを誰が握るか という競争でもあります。
日本はそのインフラ部分で、まだ大きな勝機を持っています。

まとめ
AI競争というとGPUや生成AIサービスが注目されますが、AIの本質はソフトウェア競争だけではありません。巨大モデルを支えるためには、
- 半導体
- 電力
- データセンター
- 通信インフラ
といった総合的な基盤が不可欠です。
その中心にあるのが 海底ケーブル です。
世界の大陸間通信の大部分を担い、AI普及によって重要性はさらに高まっています。
各国や巨大IT企業は通信容量拡大や新規ケーブル敷設を加速させ、海底ケーブルは国家安全保障にも関わる戦略インフラへと変化しています。
同時に、データセンター内部でも通信量が急増し、
- 光通信
- シリコンフォトニクス
- CPO
- 光電融合
といった次世代技術が急速に注目されています。
AIの通信需要を支えるため、世界的に光通信・データセンター接続網への投資が拡大しています。
こうした中で日本は、
- 海底ケーブル
- 光ファイバー
- 光通信部品
- 半導体材料
- 通信インフラ技術
といった分野で依然として高い競争力を持っています。
AIサービスそのものの主導権は難しくても、AI文明を支えるインフラ では大きな可能性があります。
AI時代の勝者は、AIモデルを作る企業だけではありません。
その基盤を支えるインフラを提供できる国も、同じく重要な存在になっていくでしょう。
次回予告
第6回 2035年、日本はAI国家になれるのか― AI時代の勝者と敗者を分ける条件
本連載ではこれまで、
- AIと電力
- AIと原子力
- 半導体材料
- TSMC依存リスク
- 海底ケーブル
- 光通信
といったテーマを扱ってきました。
すべては 「AIを支える国家基盤」 という一つのテーマでつながっています。
最終回となる次回は、
- AI覇権を握る国はどこか
- 日本の強みと弱みは何か
- 日本はAI国家になれるのか
という問いに向き合います。
Iは単なる技術革新ではなく、産業構造や国家戦略、国際秩序を変えるインフラ革命です。 2035年、日本はどこに立っているのか―最終回でその未来像を展望します。


